2024年介護報酬改定 居宅介護支援の新設加算解説
令和6年度介護報酬改定における改定事項については、全体で125項目もありました。全サービス共通の改定項目としては、「人員配置基準における両立支援への配慮」「管理者の責務及び兼務範囲の明確化等」「いわゆるローカルルールについて」「『書面掲示』規制の見直し」などがありました。
また、居宅介護支援事業にかかる改定では、「居宅介護支援における特定事業所加算の見直し」「他のサービス事業所との連携によるモニタリング」「入院時情報連携加算の見直し・通院時情報連携加算の見直し・ターミナルケアマネジメント加算等の見直し」「ケアプラン作成に係る『主治の医師等』の明確化」「介護支援専門員1人当たりの取扱件数(報酬)(基準)」など多くの項目がありましたが、今回は報酬上「新規加算(減算)」となったものについて、改めて確認していきたいと思います。ただ、居宅介護支援事業においては、項目数としては少ない状況でした。
居宅介護支援の新設加算概要
居宅介護支援事業は、全体で17項目の見直し項目がありました。これは、施設・入居系や医療系サービスと比べて小幅な改定の印象を受けますが、実際的にはこれまでの加算の算定要件等の内容自体の見直しが多く対応に苦慮する項目も多かったかと思います。
また基本報酬単位数の改定率は、居宅介護支援費(Ⅰ)で約0.92%、居宅介護支援費(Ⅱ)で0.94%、介護予防支援費(地域包括支援センターの場合)で約0.91%、全体平均で約0.92%となっています。
今回2024年の改定が医療と介護の同時改定下では、更なる医師(病院・診療所を含む)医療系サービスとの連携加速が見直しに多くは反映されましたが、報酬の変更はあまりありませんでした。また、居宅介護支援事業においては、なかなか介護支援専門員のなり手のいない中で、いかに1人あたりの介護支援専門員が効率よくケアマネジメント件数を拡大することができるのかなど取り組むべき課題がまだ山積したまま、今後の検討課題への中間的対応が中心にまとめられた感じが否めません。
さて、17項目のうち新規加算(減算)にかかる改定については、以下の通りです。
- 居宅介護支援事業者が市町村から指定を受けて介護予防支援を行う場合の取扱い
- 業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入(業務継続計画未実施減算)
- 高齢者虐待防止の推進(高齢者虐待防止措置未実施減算)
- 同一建物に居住する利用者へのケアマネジメント(減算)
各新設加算・減算の詳細
居宅介護支援事業者が市町村から指定を受けて介護予防支援を行う場合の取扱い
単位数は以下のとおりです。
以下介護予防支援費(Ⅱ)のみ
- 特別地域介護予防支援加算 所定単位数の15%を加算(新設)
※ 別に厚生労働大臣が定める地域に所在 - 中山間地域等における小規模事業所加算 所定単位数の10%を加算(新設)
※ 別に厚生労働大臣が定める地域に所在し、かつ別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合 - 中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算 所定単位数の5%を加算(新設)
※ 別に厚生労働大臣が定める地域に居住している利用者に対して、通常の事業の実施地域を越えて、指定介護予防支援を行った場合
居宅介護支援事業者も市町村からの指定を受けて介護予防支援を実施できるようになったことから上記の見直しが行われました。また、介護支援専門員の取扱い件数が要介護者の数に要支援者の数に3分の1を乗じた数となりました。
業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入(業務継続計画未実施減算)
単位数は以下のとおりです。
前回の令和3年度の介護報酬改定の時から猶予期間とされていましたが、感染症や災害が発生しても、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を整えるために、業務継続計画の策定を徹底することが義務化されました。もし感染症または災害、またはその両方に対する業務継続計画が未策定の場合、基本報酬が減算されることになりました。
要件としては、次の基準を満たしていない場合について減算されます。
- 感染症や非常災害が発生したときに、利用者へのサービス提供を継続し、非常時の体制で早期に業務を再開するための計画(業務継続計画)を策定すること。
- この業務継続計画に基づいて、必要な措置を講じること。
「必要な措置を講じること」とは、委員会の設置や方針、研修・シミュレーション・訓練・計画の見直しといったBCMが整っていることです。ただ、令和7年3月31日までの間、感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には、減算を適用しないとされています。早期の体制整備が必要です。特に、小規模事業所や単体の事業所などは、努力義務である地域住民などとの連携や、地域の他法人(特に社会福祉法人や大規模法人)との連携などBCMが実行できる体制整備などを実態に合わせた具体的な働きかけが必要となると思われます。
高齢者虐待防止の推進(高齢者虐待防止措置未実施減算)
単位数は以下のとおりです。
利用者の人権を守り、虐待を防ぐために、虐待発生や再発防止のための措置を講じることが求められました。これには、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが含まれます。施設におけるストレス対策を含む高齢者虐待防止の取り組み例を集め、周知を図ることが求められました。また、国の補助を受けて都道府県が実施している事業において、ハラスメントやストレス対策に関する研修を実施できるようにしました。この事業の相談窓口は、高齢者本人や家族だけでなく、介護職員も利用できることを明確にし、高齢者虐待防止の施策を充実させることとしました。
要件としては、虐待の発生や再発を防止するため、以下のような措置が講じられていない場合について減算されることとなりました。
- 虐待防止対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を従業者にしっかりと知らせること。(テレビ電話などを活用して開催することも可能。)
- 虐待防止のための指針を整備すること。
- 従業者に対して、虐待防止のための研修を定期的に実施すること。
- 上記の措置を適切に行うための担当者を配置すること。
同一建物に居住する利用者へのケアマネジメント(減算)
単位数は以下のとおりです。
介護報酬は、業務にかかる手間やコストを評価するものです。利用者が、居宅介護支援事業所に併設または隣接しているサービス付き高齢者向け住宅に住んでいる場合や、同じ建物に複数の利用者が住んでいる場合、介護支援専門員の実際の業務内容に見合った評価がされるように見直しが行われました。
算定要件等として、対象となる利用者は以下のとおりです。
- 指定居宅介護支援事業所の所在する建物と同一の敷地内、隣接する敷地内の建物又は指定居宅介護支援事業所と 同一の建物に居住する利用者
- 指定居宅介護支援事業所における1月当たりの利用者が同一の建物に20人以上居住する建物(上記を除く。)に 居住する利用者
居宅介護支援に求められる今後の運営方針
上記のとおり、今回新規加算は、指定居宅介護支援事業者が介護予防支援を受けることができる改定項目についてのみでした。あとは減算項目の変更となりました。減算にならない体制・組織作りはもちろん対応が必須ですが、新規加算があるからと介護予防を直接指定事業者になって介護予防支援を実施するかは、地域の状況や将来性など様々な角度から中長期的戦略を持って検討する必要があると思われます。
今回の介護報酬改定に伴い、居宅介護支援事業所や介護支援専門員は、新しい報酬体系への適応、業務効率化(ICTの活用・事務作業負担の低減)、専門性の向上(適切なケアマネジメント手法等含む)、地域との連携強化(障がい事業者との連携やヤングケアラー支援)、利用者満足度の向上(利用者の自己負担議論についての検討含む)、そして事業の持続可能性確保に取り組むなど非常に高度でタフな対応が必要となります。多岐に渡りますが、これらにしっかりと対応することにより、質の高いケアマネジメントを提供しながら、安定した事業運営を目指すことが求められます。今後機会があれば、今回大幅に改定のあった体制の整備やオペレーション変更にかかる部分についてもご説明できたらと思います。
神内 秀之介 氏
ふくしのよろずや神内商店合同会社 代表社員
様々な公職や現場での20年以上の経験から、介護経営のコンサルタント顧問契約。
経営者・理事長の経営参謀として、業務効率化から利用者・入居者獲得まで、様々なふくしやふくしみたいな経営のアドバイスを行なっています。