2024年介護報酬改定 訪問介護の新設加算解説

2024.11.25

令和6年度介護報酬改定における改定事項については、全体で125項目もありました。全サービス共通の改定項目としては、「人員配置基準における両立支援への配慮」「管理者の責務及び兼務範囲の明確化等」「いわゆるローカルルールについて」「『書面掲示』規制の見直し」などがありました。

同様に、介護職員の処遇改善加算の改定などの大きな改定もありました。また、訪問介護にかかるその他の改訂項目では、「訪問系サービスにおける認知症加算の見直し」などもありましたが、今回は報酬上「新規加算(減算)」となったものについて、改めて確認していきたいと思います。

訪問介護の新設加算概要

訪問介護は、全体で11項目の見直し項目がありました。これは、施設・入居系や医療系サービスと比べて非常に小幅な改定となりました。またなんと言っても基本報酬単位数の改定率が、1回訪問単位あたり約2.33%のマイナスということで、非常に厳しい改定率となりました。中でも訪問介護の専門性が発揮される短時間訪問の「身体介護1・2」や「以降30分の割増」が約2.4%マイナスや、「身体介護に引き続き生活援助を行った場合」が2.99%のマイナス改定などの事業の存続に関わる程の基本報酬のマイナス見直しでした。

マイナスの理由としては、令和5年度の「介護事業経営実態調査」で、訪問介護の利益率が22年度で7.8%と、全サービス平均の2.4%を大幅に上回っていることが大きな要因ではとされています。その主たる理由の一つであるいわゆる住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅と一体的に運営している訪問介護事業所の利益率の高さと言われていますが、これでは現状地域での高齢者の「住まう」を支えているこういったサービスにも事業継続が困難になる可能性があります。また当然地域の居宅を1軒1軒訪問している事業所にとっては大打撃となっています。

訪問介護については「処遇改善加算について、今回の改定で高い加算率としており、賃金体系等の整備、一定の月額賃金配分等により、まずは14.5%から、経験技能のある職員等の配置による最大24.5%まで、取得できるように設定している」とされていますが、それでも1番上位の加算を取得してもマイナスを補うには非常に厳しい事業運営が想定されます。それゆえ、収入のための単位の獲得や減収を抑えるためには、決して今回後ほど説明する体制整備について減算されないことや、今回説明はありませんが、全サービス共通の改定でもあった「人員配置基準における両立支援への配慮」「管理者の責務及び兼務範囲の明確化等」そして「テレワークの取扱い」について検討し効率化や生産性向上を取り入れることや。従前からありなかなか算定が進んでいない「生活機能向上連携加算」の取得など、リハビリやバーゼルインデックスによるADL評価を見据えた将来的なLIFE加算取得を検討し、早期に強固な収益体制を確保していくということが非常に重要です。訪問介護においては、今後どんどんその専門性と必要性をアピールしていく必要性が求められそうです。

さて、それでは改めて今回の新規加算(減算)は、以下の通りです。

  • 訪問介護における特定事業所加算の見直し(特定事業所加算(Ⅴ)新設)
  • 業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入(業務継続計画未実施減算)
  • 高齢者虐待防止の推進(高齢者虐待防止措置未実施減算)
  • 訪問系サービス及び短期入所系サービスにおける口腔管理にかかる連携強化(口腔連携強化加算)
  • 訪問介護における同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬見直し

各新設加算・減算の詳細

訪問介護における特定事業所加算の見直し(特定事業所加算(Ⅴ)新設)

単位数は以下のとおりです。

所定単位数の 3%を加算(新設)

現行の(Ⅳ)を廃止し、現行の(Ⅴ)を(Ⅳ)に、新たな(Ⅴ)を新設されました。

体制要件では、他の(Ⅰ)から(Ⅳ)と同様、

(1)訪問介護員等・サービス提供責任者ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施
(2)利用者に関する情報又はサービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催
(3)利用者情報の文書等による伝達、訪問介護員等からの報告
(4)健康診断等の定期的な実施
(5)緊急時等における対応方法の明示

が求められます。

人員要件では、サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ、基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること。又は、訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が100分の30以上であることとされています。他の特定事業所加算と比較すると取得しやすい要件となっていることから、特定事業所加算の未取得事業所は是非取得に取り組んでみてはいかがでしょうか。

業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入(業務継続計画未実施減算)

単位数は以下のとおりです。

所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算(新設)

前回の令和3年度の介護報酬改定の時から猶予期間とされていましたが、感染症や災害が発生しても、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を整えるために、業務継続計画の策定を徹底することが義務化されました。もし感染症または災害、またはその両方に対する業務継続計画が未策定の場合、基本報酬が減算されることになりました。

要件としては、次の基準を満たしていない場合について減算されます。

  • 感染症や非常災害が発生したときに、利用者へのサービス提供を継続し、非常時の体制で早期に業務を再開するための計画(業務継続計画)を策定すること。
  • この業務継続計画に基づいて、必要な措置を講じること。

「必要な措置を講じること」とは、委員会の設置や方針、研修・シミュレーション・訓練・計画の見直しといったBCMが整っていないことです。ただ、令和7年3月31日までの間、感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には、減算を適用しないとされています。早期の体制整備が必要です。特に、小規模事業所や単体の事業所などは、努力義務である地域住民などとの連携や、地域の他法人(特に社会福祉法人や大規模法人)との連携などBCMが実行できる体制整備などを実態に合わせた具体的な働きかけが必要となると思われます。

高齢者虐待防止の推進(高齢者虐待防止措置未実施減算)

単位数は以下のとおりです。

所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算(新設)

利用者の人権を守り、虐待を防ぐために、虐待発生や再発防止のための措置を講じることが求められました。これには、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが含まれます。施設におけるストレス対策を含む高齢者虐待防止の取り組み例を集め、周知を図ることが求められました。また、国の補助を受けて都道府県が実施している事業において、ハラスメントやストレス対策に関する研修を実施できるようにしました。この事業の相談窓口は、高齢者本人や家族だけでなく、介護職員も利用できることを明確にし、高齢者虐待防止の施策を充実させることとしました。

要件としては、虐待の発生や再発を防止するため、以下のような措置が講じられていない場合について減算されることとなりました。

  • 虐待防止対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を従業者にしっかりと知らせること。(テレビ電話などを活用して開催することも可能。)
  • 虐待防止のための指針を整備すること。
  • 従業者に対して、虐待防止のための研修を定期的に実施すること。
  • 上記の措置を適切に行うための担当者を配置すること。

訪問系サービス及び短期入所系サービスにおける口腔管理にかかる連携強化(口腔連携強化加算)

単位数は以下のとおりです。

50単位/回(新設)※1月に1回に限り算定可能

訪問介護員が利用者の口腔の健康状態を確認することで、歯科の専門家が適切に口腔のケアをできるようにするために、事業所と歯科の専門家が協力します。具体的には、訪問介護員が利用者の口腔の衛生状態や機能を評価し、その結果を利用者の同意を得て歯科医療機関や介護支援専門員に伝えます。この取り組みに対して、新しい報酬が設定されます。

算定要件等として、訪問介護員が利用者の口腔の健康状態を評価し、その結果を利用者の同意を得て歯科医療機関や介護支援専門員に伝えた場合、月に一度だけ加算報酬がもらえます。また、訪問介護事業者が利用者の口腔の健康状態を評価する際に、過去に訪問診療(診療報酬の歯科点数表区分番号C000)を行ったことがある歯科医師や、その指示を受けた歯科衛生士が訪問介護事業者の相談に対応できるように、そうした体制を整えて文書で取り決めておく必要があります。

こちらの加算は、一見取得が難しそう、面倒そうな加算と思われるかもしれませんが、今回の制度改正の全体的な方向性である「リハビリ(機能訓練)・栄養・口腔ケアの一体的な取り組み」に合致する加算となっていることから、多くの事業所が取り組み次の改正に向けて是非実績を残していただきたいところです。

訪問介護における同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬見直し

単位数は以下のとおりです。

12%減算(新設)

訪問介護では、同じ建物に住む利用者へのサービスが多くなると、訪問回数が増える一方で、移動時間や移動距離が短くなる傾向があります。これを踏まえて、同じ建物に住む利用者へのサービスが全体の一定割合を超える場合に、報酬を適正に調整するための新しいルールを設け、さらに改善を図るとされたものです。

算定要件等としては、正当な理由なく、事業所において、前6月間に提供した訪問介護サービスの提供総数のうち、事業所と 同一敷地内又は隣接する敷地内に所在する建物に居住する者(事業所と同一敷地内または隣接する敷地内に所在する建物に居住する利用者の人数が1月あたり50人以上の場合に該当する場合を除く)に提供されたものの占める割合100分の90以上である場合に新たに減算されるとなりました。

この新しいルールによって、これまで減算がなかった事業所においても新たに減算が発生する場合があるので注意が必要です。例えば高齢化の進んだ大きな集合型の大規模公営住宅の中に位置している訪問介護事業所や一般のアパートやマンションであっても同一建物に多くの利用者が占めている場合に減算対象とされる場合があるので、事前に保険者に確認するなど注意が必要です。

終わりに

今回の新設(減算)の説明は上記のとおりです。今後機会があれば、今回説明しきれなかった変更にかかる部分についてもご説明できたらと思います。

神内 秀之介 氏

ふくしのよろずや神内商店合同会社 代表社員

様々な公職や現場での20年以上の経験から、介護経営のコンサルタント顧問契約。
経営者・理事長の経営参謀として、業務効率化から利用者・入居者獲得まで、様々なふくしやふくしみたいな経営のアドバイスを行なっています。

https://jinnaisyouten.com