2024年介護報酬改定 訪問看護の新設加算解説
令和6年度介護報酬改定における改定事項については、全体で125項目もありました。全サービス共通の改定項目としては、「人員配置基準における両立支援への配慮」「管理者の責務及び兼務範囲の明確化等」「いわゆるローカルルールについて」「『書面掲示』規制の見直し」などがありました。また、訪問看護にかかる改訂では、「訪問看護等におけるターミナルケア加算の見直し」「訪問看護等における24時間対応のニーズに対する即応体制の確保」「退院時共同指導の指導内容の提供方法の柔軟化」などがありましたが、今回は報酬上「新規加算(減算)」となったものについて、改めて確認していきたいと思います。
訪問看護の新設加算概要
訪問看護は、全体で15項目の見直し項目がありました。これは、施設・入居系と比べてかなり小幅な改定となりました。また基本報酬単位数の改定としても、指定訪問看護ステーションで約0.28%(予防含む)のプラス、病院・診療所で約0.26%(予防含む)のプラスということで、非常に小幅な改定率となりました。今回2024年の改定が医療と介護の連携が重視された中では、ターミナル(看取り)への対応、病院・施設などとの連携について重点的に改定が行われました。これは、今後ますますの後期高齢者の増加に伴う医療依存度の高い在宅療養者が増えていく前に、しっかりと在宅(居宅・自宅)や住み慣れた地域の多様な住まいで、安心して生活できることを支援する体制を訪問看護に担ってもらいたいメッセージであると考えられます。
さて、15項目の改定について新規加算(減算)項目は、以下の通りです。
- 専門性の高い看護師による訪問看護の評価(専門管理加算)
- 円滑な在宅移行に向けた看護師による退院当日訪問の推進(初回加算Ⅰ)
- 情報通信機器を用いた死亡診断の補助に関する評価(遠隔死亡診断補助加算)
- 業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入(業務継続計画未実施減算)
- 高齢者虐待防止の推進(高齢者虐待防止措置未実施減算)
- 訪問系サービス及び短期入所系サービスにおける口腔管理に係る連携の強化(口腔連携強化加算)
- 訪問看護等における24時間対応体制の充実(緊急時訪問看護加算(Ⅰ))
- 理学療法士等による訪問看護の評価の見直し(減算)
各新設加算・減算の詳細
専門性の高い看護師による訪問看護の評価(専門管理加算)
単位数は以下のとおりです。
医療が必要な訪問看護利用者が増えている中で、看護の質を高めるために、専門のスキルを持った看護師が訪問看護や介護予防訪問看護、(小規模多機能型居宅介護)を計画的に管理することを評価するための新しい報酬が設けられています。
算定要件等として、指定訪問看護事業所で、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門ケアや人工膀胱ケアに関する専門研修を受けた看護師、または特定行為研修を修了した看護師が、計画的に訪問看護を管理した場合には、加算報酬が支払われます。この届け出は、都道府県知事に行われます。細かい基準は以下の通りです。
イ.緩和ケア、褥瘡ケア又は人工肛門ケア及び人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師が計画的な管理を行った場合
・悪性腫瘍の鎮痛療法又は化学療法を行っている利用者
・真皮を越える褥瘡の状態にある利用者
・人工肛門又は人工膀胱を造設している者で管理が困難な利用者
ロ.特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理を行った場合
・診療報酬における手順書加算を算定する利用者
※対象の特定行為:気管カニューレの交換、胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換、膀胱ろうカテーテルの交換、褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法、持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整、
脱水症状に対する輸液による補正
円滑な在宅移行に向けた看護師による退院当日訪問の推進(初回加算Ⅰ)
単位数は以下のとおりです。
要介護者等がスムーズに自宅での生活に移行できるように、看護師が退院や退所した当日に初めて訪問することを評価するための新しい加算評価が設けられました。
算定要件等として、新たに訪問看護計画書を作成した利用者が、病院や診療所、介護施設から退院または退所した日に、指定訪問看護事業所の看護師が初めて訪問看護を行った場合、月ごとに加算がもらえます。ただし、「(Ⅱ)」が適用されている場合は、この報酬はもらえません。(初回加算(Ⅱ)の要件は、新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院、診療所又は介護保険施設から退院又は退所した日の翌日以降に初回の指定訪問看護を行った場合は、1月につき所定単位数を加算する。ただし、(Ⅰ)を算定している場合は、算定しない。300単位/月)
情報通信機器を用いた死亡診断の補助に関する評価(遠隔死亡診断補助加算)
単位数は以下のとおりです。
離島などに住む利用者の死亡診断について、診療報酬と調整をとるために、ターミナルケア加算を算定し、看護師が情報通信機器を使って医師の死亡診断をサポートした場合に、新しい評価が設けられました。
算定要件等として、情報通信機器を使って在宅での看取りに関する研修を受けた看護師が、特定の地域に住む利用者のために、医師の死亡診断医科診療報酬点数表の区分番号C001の注8の死亡診断加算算定をサポートした場合に、「遠隔死亡診断補助加算」として加算報酬がもらえます。このサポートは、利用者の主治医からの指示に基づいて行われます。ただし、特定の老人ホーム(指定特定施設入居者生活介護事業者の指定を受けている有料老人ホームその他これに準ずる)などの施設については除かれます。
注8 死亡診断加算 200点
以下の要件を満たしている場合であって、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン(平成29 年9月厚生労働省)」に基づき、ICTを利用した看護師との連携による死亡診断を 行う場合には、往診又は訪問診療の際に死亡診断を行っていない場合でも、死亡診断加算のみを算定可能。
- ア.当該患者に対して定期的・計画的な訪問診療を行っていたこと。
- イ.正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12 時間以上を要することが見込まれる状況であること。
- ウ.特掲診療料の施設基準等の第四の四の三の三に規定する地域に居住している患者であって、連携する他の保険医療機関において区分番号「C005」在宅患者訪問看護・指導料の在宅ターミナルケア加算若しくは「C005-1-2」同一建物居住者訪問看護・指導料又は連携する訪問看護ステーションにおいて訪問看護ターミナルケア療養費を算定していること。
業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入(業務継続計画未実施減算)
単位数は以下のとおりです。
前回の令和3年度の介護報酬改定の時から猶予期間とされていましたが、感染症や災害が発生しても、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を整えるために、業務継続計画の策定を徹底することが義務化されました。もし感染症または災害、またはその両方に対する業務継続計画が未策定の場合、基本報酬が減算されることになりました。
要件としては、次の基準を満たしていない場合について減算されます。
- 感染症や非常災害が発生したときに、利用者へのサービス提供を継続し、非常時の体制で早期に業務を再開するための計画(業務継続計画)を策定すること。
- この業務継続計画に基づいて、必要な措置を講じること。
「必要な措置を講じること」とは、委員会の設置や方針、研修・シミュレーション・訓練・計画の見直しといったBCMが整っていることです。ただ、令和7年3月31日までの間、感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には、減算を適用しないとされています。早期の体制整備が必要です。特に、小規模事業所や単体の事業所などは、努力義務である地域住民などとの連携や、地域の他法人(特に社会福祉法人や大規模法人)との連携などBCMが実行できる体制整備などを実態に合わせた具体的な働きかけが必要となると思われます。
高齢者虐待防止の推進(高齢者虐待防止措置未実施減算)
単位数は以下のとおりです。
利用者の人権を守り、虐待を防ぐために、虐待発生や再発防止のための措置を講じることが求められました。これには、委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが含まれます。施設におけるストレス対策を含む高齢者虐待防止の取り組み例を集め、周知を図ることが求められました。また、国の補助を受けて都道府県が実施している事業において、ハラスメントやストレス対策に関する研修を実施できるようにしました。この事業の相談窓口は、高齢者本人や家族だけでなく、介護職員も利用できることを明確にし、高齢者虐待防止の施策を充実させることとしました。
要件としては、虐待の発生や再発を防止するため、以下のような措置が講じられていない場合について減算されることとなりました。
- 虐待防止対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を従業者にしっかりと知らせること。(テレビ電話などを活用して開催することも可能。)
- 虐待防止のための指針を整備すること。
- 従業者に対して、虐待防止のための研修を定期的に実施すること。
- 上記の措置を適切に行うための担当者を配置すること。
訪問系サービス及び短期入所系サービスにおける口腔管理にかかる連携強化(口腔連携強化加算)
単位数は以下のとおりです。
訪問看護師等が利用者の口腔の健康状態を確認することで、歯科の専門家が適切に口腔のケアをできるようにするために、事業所と歯科の専門家が協力します。具体的には、訪問看護師等が利用者の口腔の衛生状態や機能を評価し、その結果を利用者の同意を得て歯科医療機関や介護支援専門員に伝えます。この取り組みに対して、新しい報酬が設定されます。
算定要件等として、訪問看護師等が利用者の口腔の健康状態を評価し、その結果を利用者の同意を得て歯科医療機関や介護支援専門員に伝えた場合、月に一度だけ加算報酬がもらえます。また、訪問介護事業者が利用者の口腔の健康状態を評価する際に、過去に訪問診療(診療報酬の歯科点数表区分番号C000)を行ったことがある歯科医師や、その指示を受けた歯科衛生士が訪問看護事業者の相談に対応できるように、そうした体制を整えて文書で取り決めておく必要があります。
こちらの加算は、一見取得が難しそう、面倒そうな加算と思われるかもしれませんが、今回の制度改正の全体的な方向性である「リハビリ(機能訓練)・栄養・口腔ケアの一体的な取り組み」に合致する加算となっていることから、これまで口腔のヘルスケアについてあまり専門的に関わってこなかった多くの訪問看護事業所が取り組み、連携が推進されることが期待されます。
訪問看護等における24時間対応体制の充実(緊急時訪問看護加算(Ⅰ))
単位数は以下のとおりです。
指定訪問看護ステーションの場合 600単位/月
病院又は診療所の場合 325単位/月
一体型定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の場合 325単位/月
緊急時訪問看護の加算について、訪問看護等が24時間対応できる体制を強化するために、夜間に対応する看護師などの勤務環境を改善した場合に、新しい評価として追加の報酬が設けられました。
算定要件等については、次の通りです。
(2)緊急時訪問における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制の整備が行われていること。ちなみに「緊急時訪問看護加算(Ⅱ)」は、上記の緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の(1)に該当するものであること。
とされています。
理学療法士等による訪問看護の評価の見直し(減算)
単位数は以下のとおりです。
厚生労働大臣が定める施設基準に該当する指定訪問看護事業所については、1回につき8単位を所定単位数から減算する。(新設)
理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による訪問の場合(介護予防)
厚生労働大臣が定める施設基準に該当する指定介護予防訪問看護事業所については、1回につき8単位を所定単位数から減算する。(新設)
理学療法士等による訪問看護の提供実態を踏まえて、訪問看護に求められる役割に基づくサービスが提供されるようにする観点から、理学療法士等のサービス提供状況及びサービス提供体制等に係る加算の算定状況に応じ、理学療法士等の訪問における基本報酬及び12月を超えた場合の減算について見直しが行われました。
算定要件等として、
- イ.当該訪問看護事業所における前年度の理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること。
- ロ.緊急時訪問看護加算、特別管理加算及び看護体制強化加算をいずれも算定していないこと
とされました。
訪問看護に求められる今後の運営方針
上記のとおりです。今後、団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けて、地域包括ケアシステムの構築が進められています。さらに2025年以降も人口減少と高齢化が進む中で、訪問看護師などが不足する中で利用者(患者)がその状況・状態に合った質の高い医療系サービスを受けられるように、介護サービス等と連携しながら途切れのない医療系サービスの支援体制を整えることが重要です。そのために、訪問看護事業者においても効率化や生産性向上など医療DX、働きやすい職場環境の整備などのサービス提供体制を強化していく必要がありそうです。今後機会があれば、その他の変更点や体制などのオペレーション変更にかかる部分についてもご説明できたらと思います。
神内 秀之介 氏
ふくしのよろずや神内商店合同会社 代表社員
様々な公職や現場での20年以上の経験から、介護経営のコンサルタント顧問契約。
経営者・理事長の経営参謀として、業務効率化から利用者・入居者獲得まで、様々なふくしやふくしみたいな経営のアドバイスを行なっています。