【通所介護編】利用者に選ばれるための営業ポイント
はじめに
今年の夏はとても暑く、群馬県伊勢崎市では、気象庁観測歴代1位の41.8℃を2025年8月5日に観測しました。
この暑さの影響で、「ご家族のレスパイト目的の通所介護ご利用が増えました」「ご体調が悪いお客様がおられ、利用中止になり、振替利用のご提案をしました」という事業所も多かったと思います。
このような中で、「通所介護をご利用のお客様がご体調を崩される」「ご入院をされる」ということも予測をしながら、日頃の継続営業は重要です。
営業活動を分解して考える
特に営業風土が未熟な介護業界においては、「営業が上手くいかない」「営業に自信がない」というお声もよく聞かれますが、営業活動を分けて考えてみたらいかがでしょうか。営業には、「営業先選別」「計画」「事前準備」「告知活動」「直後フォロー」「継続フォロー」で課題を明確にしていくことが大切です。「自分たちとお付き合い頂くとこんないいこと(メリット)がある」ことのアピールも必要です。短い時間でお忙しいご紹介者に何を伝えるのが、一番重要であり、何を伝えたいのかが分からずに、営業に行っても、肝心のアピールポイントを伝えず、ただ何度も表敬訪問している場合が多いのが、現実です。「私たちには〇〇のウリがあります。○○のニーズのあるお客様を是非、紹介お願いします!」と営業時には、きちんとお伝えしましょう。
利用者が選ぶ事業所とは
そして「介護サービスを行うためには利用していただくお客様が必要」ということを正職員、非常勤問わず、会議等で理解の機会を定期的に作りましょう。介護サービスというのは自由な料金設定ではなく、基本は同じ地域で同じ料金で同じサービスを受けることができます。同じサービスを同じ料金で受けるならば、近くだからと良いという理由だけではなく、よりサービスや対応の良い事業所で、より気持ちのいい環境、感じの良いスタッフ、より質の高い接遇やホスピタリティを感じられる事業所を選びたいと希望するのは、当然です。
多数の同じサービスを提供する競合施設や事業所がある中で、黙っていてもお客様が来て、待って頂ける事業所はほぼありません。どんなサービスも営業努力をしなければ自分たちのサービスの質や売り、差別化,特長を伝えることも、知ってもらうことも出来ません。選ばれるだけの情報提供やアピールもせず、ただ選ばれるのを待っている、安定した経営が担保されていると思うことは勘違いで、今の介護事業は、そんなに甘くはありません。よい介護サービスをより多くのお客様に提供したいのならば、自分たちの日々の活動と成果を知ってもらう努力(営業活動)は、大切な安定した運営業務の1つです。
営業に必要なのは知識と準備
営業が不安で怖いのは、自分に「自信」が持てないからだと思います。「何を聞かれるんだろう」「分からないことを聞かれたらどうしよう」「嫌味を言われたら嫌だ」「冷たくされるのでは」とネガティブなことばかり考え、足が重くなってしまって気持ちはよく分かりますが、何を聞かれても困らない知識、嫌味を言われても笑顔やお詫びで対応出来る対応手法を事前に準備しておけば営業への恐怖から逃れられるはずです。営業は事前準備も必要な業務です。自分たちの事業所の情報や活動内容、成果をしっかり頭に入れて下さい。利用料金さえ分からずにサービス内容を説明することは、商品の料金も知らずに販売するのと同じです。知識も持たずに説明をするのは言語道断。相手に正しい理解をして頂く為の知識を持つ努力は必要です。私も経験してきましたが、多少の嫌味や小言を言われても「貴重なご意見ありがとうございます。以後努力し、改善して参ります」と頭を下げ、ご挨拶しましょう。「これは私たちに関心のあるアドバイスなんだと」と真摯に受け止め、定期的に改善報告を行っていくことで、「信頼関係を築く貴重な時間」と前向きに捉えるようにしましょう。
現場職員だからこそできる営業
そして「介護の専門職だから営業は営業職の人に」という考えは大間違いです。実際にお客様と関わり、現場を知る立場の人だからこそ、自分たちの特徴やウリをアピールでき、質問にも具体的にご対応できるのではないでしょうか。
営業職のみを行っている方の中には、関わりのない現場の具体的な質問には答えられずで、「確認して後日お答えします」とご対応されているはずです。「適切に質問に答えられる人」と「適切に質問に答えられない人」どちらが相手にとって感じがよく、信頼をおける印象を与えられるでしょうか。皆さんもスーパー等で経験があるかと思いますが、現場でお客様に直接関わり、実際にサービスを提供する方から話を直接聞けることが、何よりのアピール(営業活動)です。
営業は「売り込み」ではなくネットワーク作り
そして職員も「いつも一緒に働いている人と、そうでない人」からでは、「営業してなぜ、お客様をご紹介頂いているのか」の理解度も協力性も異なると思います。まず、「なぜ、営業し、お客様を獲得しなければいけないか」ということから、正職員、非常勤問わず、職員全員の認識の統一が必要です。「自分たちの給与は、利用して頂くお客様がおられるから貰えるんだ!」という、当たり前の常識と、「お客様がいなければ私たちの処遇改善加算の分配も少なくなる」「赤字であればいずれは資金繰りが苦しくなり、給与はもらえなくなる」という社会一般の当たり前の危機感を持ってもらう必要があります。私たちの介護事業は、定員数のお客様がおられてこそ、正規の給与に値します。営業を「売り込み」とは考えずに「ネットワーク作り」「地域とのコミュニケーション構築」と捉える方が正しいと思います。「何でも、いつでも相談できる、地域のネットワーク作り」は、「今後の皆さんの活動の良き理解者作り」になるはずですので、これから秋から冬にかけ、お客様の獲得も今がチャンスです。前向きな営業活動を心がけ、健全な運営を目指して頂ければ幸いです。
次回更新は10月14日(火)
伊藤 亜記​ 氏
株式会社ねこの手 代表取締役
短大卒業後、大手出版会社へ入社。祖父母二人の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。98年、介護福祉士を取得し、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行を務める。
その後、大手介護関連会社の支店長を経て、介護コンサルタント「株式会社ねこの手」を設立。現在、介護雑誌の監修や本の出筆、連載、セミナー講師、TVコメンテーター、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。最新刊は、『後悔しない。損をしない。人生後半に必要な手続きのすべて』(オレンジページ)で、医療・福祉法人の顧問や大手介護会社のコンサルタントも多数務める。