第6回 賃金制度の作り方③ 特別昇給と昇進

2024.10.21
神田靖美の基礎から解説!賃金制度

■ 定期昇給だけでは不十分。特別昇給も必要

賃金制度はどれほど良いものを作っても、定期昇給と賞与を粛々と行うだけでは不十分です。働く人にやりがいを持ってもらえません。定期昇給とは別に特別昇給が必要です。

東京都荒川区にあるT社では、定期昇給が終わったら毎回、図1のような「賃金水準検討図」を作っています。青の実線は厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」による、「課長級」の平均賃金です。オレンジ色の点は、同社に実在する課長クラスの人(仮名)の年齢と賃金です。社内で課長という肩書を与えている人たちに、世間的に課長と呼ぶにふさわしい賃金を払っているかどうかを確認するために作っています。

この図で、賃金が低すぎると思われる人がいたら特別昇給させます。この昇給はそれこそ特別ですから、引き上げるべき人や金額にルールはありません。現状の賃金と最近の成績を対比して、総合的に判断します。あまりに賃金が低すぎる人は、成績が多少振るわなくても引き上げます。

実線とその人の賃金との格差を、必ずしもすべて解消するわけではありません。三分の一しか解消しないとか、半分しか解消しないとかいうこともあります。成績が良い人に対しては格差を解消するだけでなく、実線より上まで昇給させることもあります。

あくまでも特別なことなので、年によっては行わないこともあります。

「年功序列はダメだ」と多くの人が口にしますが、実際には、年功序列的な価値観は日本人の心性に深く根差しています。中小企業で働く人の大部分は中途採用ですが、「入ったばかりの人の賃金を、もともといる人より高くするわけにはいかない」と、多くの経営者や人事担当者、そして働く人たちも考えています。経験やスキルよりも、勤続年数重視です。

しかしその考え方のままでいると、「今年入る人は去年入った人より賃金が低く、来年入る人はもっと低く、再来年入る人はもっともっと低く、・・・」というように「低賃金への競争」ともいうべきことが起こります。その結果、あっという間に低賃金会社ができてしまいます。そういう罠にはまらないように、T社は賃金検討図を作っています。

なお、「特別降給」というものはありません。いくら成績が悪い人でも、賃金を下げて会社が得をすることはないからです。

同様の作業を部長クラスや係長クラス、一般職についても行っています。

図1:T社の賃金水準検討図(課長クラス)

注:「賃金構造基本統計調査」の数字は課長級、企業規模計、男女計、学歴計、所定内給与、令和4年のもの。

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神田靖美

神田 靖美 氏

リザルト株式会社 代表取締役

人事制度のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。介護事業所を始め中小企業の人事制度づくりに従事。現在、『高齢者住宅新聞』に『今こそ知りたい介護分野の賃金・評価制度』などを連載中。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。

https://www.result.tokyo/