第7回 手当は必要か
賃金にさまざまな手当があることは日本企業の特徴です。諸外国では、賃金イコール基本給であり、通勤手当さえ支給する慣行がありません。
個人の賃金は何で決まるべきかという問いに、多くの人は「成果」だとか「仕事内容」「能力」と答えるのではないでしょうか。「生活費」と答える人は少ないはずです。しかし過去には、賃金は個人の必要生活費で決まるべきだと考えられた時代がありました。「生活給」という思想です。生活給思想は1920年ころに生まれ、戦後のハイパーインフレの時期、労働者の生活が危機に瀕したことによって強化されました。今日も残っている家族手当や住宅手当は生活給の残滓といえます。
最近物価が上がってきたとはいえ、ハイパーインフレとまではいえません。正社員の実質的な最低賃金である高卒初任給188,168円(一般財団法人労務行政研究所調べ、2024年)で、生活できないということはありません。
また、労働基準法で賃金は「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています。労働の対償である以上、仕事の内容や勤務成績と無関係に支給される手当は最小限にとどめるべきです。
手当は基本給の犠牲の上に成り立っています。家族手当を廃止したらその分、総額人件費が減るわけではなく、基本給が増えます。企業が家族手当を支給するのは、働く人への愛情ではなく、人件費の一部を、扶養家族を持つ人に優先的に配分することが人事管理上好ましいと考えているからか、あるいは既得権であるからです。
図1は厚生労働省の『就労条件総合調査』の結果です。様々な手当について、それを支給している企業の割合が何%あるかを示しています。「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」も支給する会社が半数を超えています。しかし他社が支給しているというだけの理由で、自社がその手当を支給する必要はありません。どの会社にもお勧めできるのは管理監督者に支払う役職手当と通勤手当だけです。ただし介護施設には資格手当も必要です。
図1:手当の種類別制度有企業割合
厚生労働省『令和2年就労条件総合調査』より作成。
神田 靖美 氏
リザルト株式会社 代表取締役
人事制度のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。介護事業所を始め中小企業の人事制度づくりに従事。現在、『高齢者住宅新聞』に『今こそ知りたい介護分野の賃金・評価制度』などを連載中。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。