第1回 介護は評価しやすい職種

2025.2.17
神田靖美の基礎から解説!人事評価制度

ケアリポ会員の皆様、こんにちは。12月まで『基礎から解説‼賃金制度』を書いていた、リザルト株式会社の神田靖美です。1か月お休みをいただきましたが、今月から評価についてお話しします。賃金制度の話では「評価がSならこれだけ上げる、Aならこれだけ、Bならこれだけ、・・・」ということを繰り返し申し上げて来ました。今度はそのSABCDをどうやって決めるのかについてお話しします。評価を通して経営目標を達成する方法についてもお話しします。

評価とは何か

世の中には土地の価額評価、政策効果の評価、企業価値評価などさまざまな評価があります。その中で人事評価とは何か。心理学者で人事評価に詳しい加藤恭子は、「処遇を始めとした多様な目的に生かすために、従業員の組織での働きぶりを、ある一定の基準に従って判断する手続き」と定義しています(『人を活かす心理学』、2019年、北大路書房)。平易な言葉に置き換えると、「結果を何かに利用する目的で、働く人の、労働力としての価値を、決まった手順で判断すること」となりましょう。

結果を何かに利用するとは、賃金や昇進を決めることです。評価はしているけれども、別にその結果で何をしているわけでもないという会社も中にはあります。そういうものは本来の意味での評価ではありません。

働く人は、人間としての価値はみな平等です。しかし労働力としての価値には個人差があります。評価では労働力としての価値を「S」「A」「B」「C」「D」という5段階の「評語」にまとめます。

そして決まった手順とは、これから1年間かけてお話しする評価制度のことです。個人が独自の基準で判断するのではなく、それに賛成であれ反対であれ、会社が定めた制度に従って判断するのが評価です。

これがなければ評価ではない。評価の鉄則

評価には、これだけは絶対に守らなければならないという鉄則があります。

第一に対象期間、つまり「今回の評価は〇月〇日から〇月〇日までのことを評価する」という期間があるということです。評価対象期間の前あるいは後のことは、どれほど素晴らしいことでも、あるいはどれほどお粗末なことでも、その期の評価には反映させません。そうでなければ過去にやったことがいつまでも後を引くことになり、いまさら頑張ってもどうにもなりません。

第二に、仕事をするうえで関係があることだけを対象にします。趣味が何であるとか、私生活でどういう活動をしているとかいうことは対象にしません。上司へのご機嫌取りや同僚の妨害をすることによって、自分の評価を高めようとする行動のことを「インフルエンス活動」といいます。そしてインフルエンス活動を排除するために会社が負担するコストのことを「インフルエンスコスト」といいます。評価に仕事以外の要素を絡めるとインフルエンス活動が盛んになり、インフルエンスコストが上がってしまいます。

第三に、評価基準は会社が定め、あくまでそれに沿って評価をするということです。評価基準にないことは、たとえ横領でも飲酒運転でもセクシャルハラスメントでも、評価には影響させません。もちろん不問に付すわけではなく、こういうことには懲戒で対応します。評価はあくまで、制度で決められていることだけを対象にします。

なぜ評価が必要なのか

前述のとおり評価は結果を何かに利用する目的で行います。では結果を利用すべき目的とは何でしょうか。

まず賃金を決めることです。評価の結果は通常、SABCDという5段階の評語に集約されます。この評語に応じて定期昇給や賞与の金額を決めます。

第二に昇進や昇格を決めることです。昇進とは部長や課長、係長という地位が上がることを言い、昇格とは1等級、2等級、3等級、・・・という賃金のベースが上がることを言います。昇進・昇格に関して、評価の結果は、たとえば「3期連続でA以上を取れば昇進/昇格させる 」というような形で利用します。

第三は能力開発です。評価の結果、「うちの会社の人たちは、ここは強いがここは弱い」ということが明らかになります。弱いところを重点的に教育訓練すると、漫然とやるよりも効果が上がります。あるいは個別の人に、「あなたはここで点を得ており、ここで点を失っている。ここをこうすればもっと良くなる」というフィードバックをすることによって、能力の向上を図ります。

そして第四にモチベーションです。モチベーションには「方向性」「強さ」「持続性」という3つの要素があります。こういうことをやれば高く評価して賃金を上げる、あるいは昇進させるということを示すことによって、モチベーションを正しい方向に向かわせ、強め、長続きさせます。

評価制度のチェックリスト

評価の鉄則は最低限の条件であって、それさえ満たしていれば優れた評価制度であるというわけではありません。ほかにもいくつかのチェックポイントがあります。これらにより多く当てはまるほど、優れた評価制度であると言えます。

  1. 評価要素は目に見えることか
    目に見えないことは想像するしかありません。想像で人を評価することを容認すると、差別も偏見も横行してしまいます。
  2. 単純な仕組みであるか
    複雑な仕組みであっては、評価の手抜きやミスが発生します。評価される側も、良い評価を得るために何をすれば良いのかが分からなくなってしまいます。
  3. えこひいきや差別が行われていないかどうかチェックしているか
    性別、年齢、学歴などのカテゴリー別に、高い評価あるいは低い評価が集中していないかどうかを定期的に調べます。合理的に説明できる結果なら問題ありませんが、説明できないとしたら差別が行われていることになります。
  4. 評価者訓練を行っているか
    評価は体系的な知識を要する仕事であり、訓練を受けずにできるようなことではありません。初めて評価する立場になったときだけだとか、数年に1回だとかの頻度でしか評価者訓練を行わないようでは不足です。評価する人は全員、最低でも年1回は訓練を受ける必要があります。
  5. 透明な制度であるか
    評価は密室で決めるのではなくガラス張りにします。どうして自分がその成績になったのか、わかるような制度にします。
  6. 二次評価を行っているか
    評価する人の中には、質問項目すらろくに読まずに評価をして提出する人もいます。一次評価をそのまま最終結果にしてしまうのではなく、別の人がチェックします。いい加減な評価をする人は評価から外れてもらいます。
  7. 苦情処理制度を設けているか
    不当な評価を受けても泣き寝入りするのではなく、苦情を申し立てられる窓口を設けます。これによって恩恵を受けるのは評価される側だけではありません。評価する側も、評価ミスをして一生恨まれるリスクから解放されます。

介護は評価がしやすい職種

これは評価一般ではなく、目標管理という評価手法に限定した話ですが、目標管理が一番やりやすい仕事は研究開発で、次が営業。逆に目標管理が一番やりにくい職種は製造で、次が間接部門(総務や人事など)であるという分析結果があります(奥野明子『目標管理と職務の特質』2000年、文眞堂)。

研究開発と営業に共通してあり、製造と間接に共通して不在のものは、成果の明確さです。研究開発には「これを開発した」という成果があり、営業には「これだけ売った」という成果があります。さらに成果には個人差があります。しかし製造や間接は、もちろん製品や書類という成果はあるものの、「これはこの人の成果だ」というものがはっきりしません。成果物はあるものの、通常それらは作って当たり前で、作らなければ職務放棄と判断されるものです。製造部門の人が、上司から指示された以上の製品を作るということはありません。営業部門が仕事を受注してくれなければ、いくらやる気があっても作れません。また、生産できるまで職場を出ないので、指示された量を生産できないということもありません。つまり成果は仕事にとりかかる前から相当程度決まっていて、よくできたとかいま一歩だったとかいうことがありません。

筆者は製造業の会社で賃金制度を作ったこともありますが、「あの人は良い製品をたくさん作る、優秀な工員だ」という話は聞きませんでした。その会社では働く人のことを、欠勤の少なさで評価していました。

これに対して介護職員には、個人別に受け持ち入居者の事故発生率や褥瘡発生・治癒率、入居者満足度、クレーム件数、運動機能維持など、明確な成果があります。

経営学者で、目標管理に詳しい奥野明子は、次のような特質がある仕事で、目標管理が行いやすいと述べています。

  • 前もって計画を立てやすい
  • 上司が仕事の内容について指示しやすい
  • これまでに行われたことがない、新しい業務が多い
  • 仕事で予期しない変化が起きる頻度が高い
  • 個人単位で行う仕事が多い
  • 仕事の成果が出るまでの期間が長い

(『目標管理と報酬制度』2003年、中央経済社、『成果と公平の報酬制度』所収)

これらは介護の仕事に概ね当てはまります。介護は評価がしやすい職種です。

 
神田靖美

神田 靖美 氏

リザルト株式会社 代表取締役

人事制度のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表。介護事業所を始め中小企業の人事制度づくりに従事。現在、『高齢者住宅新聞』に『今こそ知りたい介護分野の賃金・評価制度』などを連載中。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。

https://www.result.tokyo/