業務継続に向けた取組の強化(BCP)〜自然災害編〜
【第4回】
5.例えば、通所サービスはどう作れば良いのか?
通所サービス固有の検討事項があります。
⑴平時からの対応
台風などの場合は、天気予報や警報で予測が出来ますので、担当の居宅介護支援事業所と相談して、その日の利用を前倒しするなどして、その日は臨時休業とするなどの事前対策を取ることが出来ます。しかし、地震や局地的な集中豪雨などの事前予想は困難です。サービス提供中に被災した場合に備えて、利用者家族や病院などの緊急連絡先の把握にあたって、複数の連絡先や連絡手段(固定電話、携帯電話、メール等)を把握しておきます。 また、居宅介護支援事業所と連携して、在宅の利用者への安否確認の方法等をあらかじめ整理しておきます。 平常時から、地域の避難方法や避難所に関する情報を事前確認して、地域の関係機関(行政、自治会、職能・事業所 団体等)と良好な関係を作るよう工夫することが必要です。
⑵災害が予想される場合の対応
台風など、事前に甚大な被害が予想される場合などでは、当日の通所サービスの休止や時間の短縮を余儀なくされることを想定して、あらかじめBCPに、休止や時間短縮の基準を定めておきます。居宅介護支援事業所にも、その基準等を情報共有した上で、利用者やその家族にも事前に説明します。 その上で、必要に応じ、サービスの前倒し等も検討します。
⑶災害発生時の対応
2020年春のコロナ禍で初めての非常事態宣言が出された時、多くのデイサービスが1ヶ月から2ヶ月の休業を選択しました。北海道や熊本での最大震度7以上の大地震でも、一定期間の休業を選択した事業所は決して少なくありませんでした。特に北海道では地震の影響によるブラックアウトで数週間の休業となった事業所も多かったようです。液状化で事業所建物が傾くなどの被害になった場合は、移転を選択せざる終えない状況となります。自然災害の影響で、デイサービスの提供を長期間休止する場合は、居宅介護支援事業所と連携して、必要に応じて他事業所の訪問介護サービス等への変更を検討します。
⑷サービス利用中の被災の場合
サービス利用中に被災した場合は、まず第一に利用者の安否確認を行った後、あらかじめ把握している緊急連絡先を活用して、利用者家族などへの安否状況の連絡を行います。このとき、誰もが安否確認で電話等に繋げる為に、一時的に電話回線がパンクして利用出来ない状況も想定されます。事前に把握しているメールやLINE,SNSなど複数の方法で連絡を試みます。利用者の安全確保を最優先に状況を把握、検討して、家族への連絡状況を踏まえて、順次利用者の帰宅を支援します。可能であれば利用者家族の迎えなどの協力も依頼します。
⑸帰宅困難時の対応
2018年7月の西日本豪雨では、野呂川ダムの緊急放水が各地の被害を拡大しました。2021年8月の中国、九州地方の集中豪雨は、西日本豪雨の雨量を超えた地域もあり、多くの地域で冠水や土砂崩れが発生しました。台風などには比較的敏感ですが、大雨については危機意識が若干、楽観的な見方をする場合もあります。そのため、デイサービスの休業の判断が遅れた場合、利用者は事業所に於いて被災する事になります。想定外の大雨や想定外のダムの緊急放水などで河川が氾濫して、道路が冠水した場合や地震で道路が陥没や隆起した場合、液状化で道路が波打っている場合など、デイサービスの送迎車の利用が困難な場合も想定されます。その場合、利用者を如何にして帰宅させるかの手段を検討します。状況によっては、事業所での宿泊や近くの避難所への移送も考慮しなければなりません。冠水や道路自体に被害が出ている場合は、家族の迎えも期待出来ません。
⑹事業所での宿泊での対応の場合
BCPでは最悪の状況を想定して、その対策を検討しなければなりません。デイサービスにおける最悪の状況の一つに、道路の冠水などで送迎車が利用出来ず、事業所での宿泊を余儀なくされることがあります。その場合、デイサービスでは人数分の寝袋などの寝具は準備されているか。また、停電や断水というライフラインが止まることも想定されますので、非常食や衛生用品、ランタンなどの簡易な照明器具の備蓄は行われているか。下水道などが使えない場合、水洗トイレの代わりとなる簡易トイレなどは準備されているか。などを検討していきます。必要に応じて、特に必要と判断される備蓄品は改めて購入を検討するなどの対策が必要となります。可能であれば、自家発電機などの準備も必要かも知れません。緊急連絡や情報の収集のため、スマホやノートパソコンの充電用に自動車のバッテリーから充電出来るコンバーターなども購入を検討します。
1.コロナ禍での運営指導の現状
コロナ禍の中であっても、運営指導が行われています。ただし、感染者数の変動で中止や延期が多く、感染者が減ったタイミングを見ながら行われています。令和2年度以降は、コロナ禍特例措置などもあって、法令の解釈での複雑さが更に増しています。
コロナ禍での特例措置を使っている場合は、その根拠となる記録が特に重要となります。コロナ禍の影響で人員基準が満たせない場合には、介護報酬の人員基準減額を行わない取扱いが可能であるとされています。しかし、コロナ禍を理由とすれば、何事も人員基準減額が行われないかというと、それは違います。
その経緯や事情が業務日誌などに記録されていることが大前提となります。ワクチン接種が普及した現在においては、クラスターの発生などが理由で無い場合は、特例が適用されないケースもあります。特例はあくまでも特例であって、本来の基準ではありません。特別措置の長期化によって、対応が慢性化して、都合の良い解釈や拡大解釈を行っている状況も見受けられます。
特例では、日常的に実施しなくても良いのでは無く、やむを得ない場合にのみ認められることを再認識すべきです。この件を指摘されての、介護報酬の返還指導が増えています。
運営指導は、まず開業してから1年以内に行われます。多くの役所では、最初の運営指導を新しく事業所番号を交付してから1年ほど経ったタイミングで実施しています。新規開業の間もないうちに最初の指導を行って、適正な運営が行われているかを確認して、問題があれば早期に指導する目的があります。その後は、在宅サービスでは指定更新前後の5~6年に一度というペースが通常の定期的な実施頻度です。
また、苦情・告発から運営指導に繋がるケースも多くあります。「苦情」とは、利用者や家族からのクレームのことです。クレームが役所に頻繁に届くような場合は、確認の意味で運営指導が行われます。「告発」とは、それ以外の第三者による通報です。退職した職員の逆恨みによる告発や内部告発から行政処分に繋がった事例もあります。苦情、告発の内容が、虐待、身体拘束、医療行為に該当する場合は、証拠隠滅の恐れがあるため、通知から運営指導までの間隔が数日と短期間で実施されます。
運営指導では、利用実績の少ない小規模事業所に対して、確認事項を記した書類を郵送して返送させる方法で簡易的に実施される書面指導があります。近年は、コロナ禍の影響もあって、書面指導での運営指導も増える傾向になります。提出された書類の記載内容に疑問がある場合に、訪問しての運営指導に切り替わります。しかし、実は書面指導は制度的には平成18年から認められては居ませんが、ローカルルールとして存在しているのが実情です。
2.複雑化する処遇改善加算等の算定要件
ここ数年は、介護職員処遇改善加算等の返還指導が急増しています。返還理由の多くは、支給対象者以外に支給していたケースです。介護職員処遇改善加算と介護職員等特定処遇改善加算の算定要件が毎年のように変わっています。
特に令和2年度の改定では、比較対象年度が大きく変わりました。最初に加算を算定した前の年度から、算定の前年度となり、さらに「前年の1月から12月」と「当年の4月から翌年3月」を比較するという変則的な算定要件となったのです。さらには、最初に加算を算定した前年以降の独自の改善額を、別枠で計算して基準年度から差し引く処理を行う処理が追加されました。
職員の入退所による実施年度と、比較対象年度間の賃金総額の調整作業も必要です。これらの明細表等の作成で、多くの時間を費やすケースも増えてきています。いずれにしても、各年度に於いて算定要件が大きく異なるため、今一度の再確認が必要となっています。さらには、2月から始まった介護職員処遇改善支援事業の処理が増えました。これは10月から加算に変更となり、処遇改善関連加算が3本となります。
支給対象者や配分のルールが、それぞれの加算毎に異なります。しっかりと算定要件を整理した上での算定が求められます。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。