介護事業経営の大規模化と介護保険外サービス<第1回>
1.骨太の方針2022に大規模化が明記された
6月に閣議決定された骨太の方針2022において、介護事業経営の大規模化を進めることが明記されました。介護サービスの経営主体は小規模な法人が7割近くを占めることを踏まえて、経営の大規模化を推進するとしています。新型コロナの感染拡大で高齢者の介護サービスを提供する多くの介護職員が感染あるいは濃厚接触者とされたため、介護に直接、従事する職員数が減少して、自宅や施設において高齢者の支援ができなくなる事態が頻発しました。小規模な法人では、介護の質の向上にも限界があって、新型コロナ発生時の業務継続や、施設内療養の実現も難しいと言えます。また、規模の大きな法人ほど、平均収支率が高いなどのスケールメリットが働きます。
2.財務省の提言
この骨太の方針に先行して、財務省は財政制度分科会において、2040年に向けて想定される介護給付費の急激な増大を防ぐためには、スケールメリットを生かした取組によって、効率的な事業運営を行っている事業所等をメルクマール(中間目標)として介護報酬を定めていくことも検討していくべきとしました。小規模な事業所に設定されている事業規模別の介護報酬を、中規模クラス以上の介護報酬に統一することで、小規模事業者に事業規模の拡大を促すと言うことです。これは極論であって、実現は無いと考えますが、なんらかの形で小規模事業所に影響を与えることが予想されます。例えば、介護報酬改定に於いて、大規模事業所が有利となるような報酬改定がなされる可能性は捨てきれません。令和6年介護保険法改正と介護報酬改定審議に於いて、この介護事業経営の大規模化が大きなテーマとして浮上しています。
3.スケールメリットの追求が重要
介護事業に於けるビジネスモデルがスケールメリットの追求にある事は周知の事実です。介護サービスの多くは、定員が設けられています。定員を超えてサービス提供すると、定員超過減算となり30%の報酬がカットされます。同じ箱の中で収益を伸ばそうとすると、新たな加算の取得や業務の効率化による経費の削減などしか方法が無いのではないでしょうか。大規模化の方法としては、「定員を増やす」「事業所の拠点を増やす」「拠点での併設サービスを増やす」「事業譲渡やM&Aによる拡大」「障害福祉事業への進出」そして、今回のテーマである「介護保険外サービスに取り組む」などが考えられます。
4.人材の育成と業務負担の軽減
しかし、事業規模の拡大には、解決すべき課題があります。それは、人材の育成です。事業拡大した拠点を任せることの出来る管理者の育成が出来なければ、事業拡大策は絵に描いた餅になります。同時に、提供する介護サービスの質も問われます。職員の確保も大きなテーマです。すべては、密接に関連しているのです。また、ウクライナ情勢や長期化するコロナ禍の影響で、物価が上昇し、介護事業経営を圧迫しています。収益性の改善が急務となっています。いずれにしても、現状で満足せずに前向きな経営をすることが、介護施設の経営を改善し、収益性を向上させる一番の近道です。業務内容の見直し、業務の標準化も重要な検討課題です。介護記録ソフトなどのICT化や介護ロボット、見守りセンサーなどの導入も積極的に進めるべきでしょう。インカムを導入する事で、業務フローも驚くほど改善が可能となります。それは設備投資を伴うこととなりますが、今はICT補助金などが充実しています。それらを活用することで、コスト負担はかなり軽減できます。短期的には設備投資で収益は悪化しても、中長期的には投資は回収できるといえます。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。