介護保険部会意見の検証 その2(2)
2.介護保険料負担年齢の引き下げの先送り
12月20日に取りまとめられた社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」においては、自己負担2割の拡大、1号保険料負担の高所得者の標準乗率の引上げ、介護老人保健施設などの多床室の自己負担化などの論点は、次期計画に向けて結論を得ることが適当であるとされて遅くとも来年夏までに結論を出す事とされました。また、軽度者の総合事業への移行や、ケアプランの自己負担化の論点が3年後の審議に持ち越されたことから、軽微な介護保険法改正に留まったという介護事業経営者の声を聞くことが多い印象です。しかし、介護保険部会の意見書を読み込めば分かりますが、近年に無い大改正であると言えます。
そのような意見書において、被保険者範囲・受給権者範囲については、第2号被保険者の対象年齢を引き下げることについての意見。という記載が有ります。
介護保険制度において、第2号被保険者は40歳以上、65歳未満とされています。これを30歳以上に引き下げる論点の事を言います。この論点については、前回の介護保険部会でも議論されて、今回への継続審議となっていました。そして、今回も結論が出ずに継続審議となったのです。第2号被保険者を40歳以上から30歳以上に引き下げる理由は何でしょうか。それは、年々増加する介護保険料の抑制が目的であると考えている方が多いですし、それは正しいのです。
しかし、そもそも介護保険料が40歳以上の負担となっている理由をご存じでしょうか。介護保険法は1997年12月の国会審議で成立して、2000年4月より施行されています。その間の2年弱で介護保険法の基盤が整備されました。現在の介護保険法を構築する課程に於いて、介護保険料の負担対象についても論点となり、議論が進められました。最終的に、他の社会保険同様に20歳以上が負担するという案と、40歳以上が負担する案の2つに絞られました。その結果として、40歳以上が介護保険料を負担することに落ち着いた経緯があります。その理由は、介護保険サービスは65歳以上が利用します。介護保険料は、その子供の世代が負担すべきであるということです。1990年代後半において、65歳以上を親に持つ子供の世代が40歳台であったために、40歳以上が保険料を負担することとなったという経緯があったのです。しかし、介護保険制度が始まって20年以上の歳月が流れ、その間に進んだ晩婚化が進みました。その結果として、現代においては、65歳以上を親に持つ子供の世代が30歳台となっているのです。この事から、第2号被保険者は40歳以上から30歳以上に引き下げる理由は正当であると言えます。そのため、近い将来には介護保険料の負担年齢の引下げが実現するでしょう。今回の審議に於いて継続審議に大きな影響を与えた意見として、まずは現行の制度の中で給付と負担に関する見直しを着実に実施することが先決との意見も根強くあるのです。今回、先送りとなった軽度者の市町村への移行や、ケアプランの自己負担化が先であり、それらが実現した後に、介護保険料の負担年齢を引き下げるべきという意見です。そのため、これら論点も、近い将来の制度改正で実現する可能性は高く、同時に、介護保険料の負担年齢の引き下げも現実味を帯びているのです。
さらに注目すべきは、第1号被保険者の対象年齢を引き上げる議論も必要との意見が明記された事です。これによって、介護保険サービスの利用開始年齢を65歳から70歳に引き上げる検討が近い将来始まると考えるべきです。では、何故、利用開始年齢を70歳に引き上げるのかです。それには、定年退職年齢が大きく影響してきます。現在、法的な定年退職の年齢は60歳ですが、2025年からは65歳に引き上げられます。さらに現代に於いては70歳までの就労機会の確保が努力目標となっているのです。また、2022年4月からは、公的年金の繰り下げ受給の受給開始年齢の上限が70歳から75歳に引き上げられます。過去に遡りますと、2017年日本老年学会では「高齢者」の定義を65歳以上から75歳以上にすることを提言しています。これらを踏まえて、介護保険制度に於いても、介護サービスの利用開始年齢の引き上げの議論が、近い将来で始まることは疑いの余地はありません。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。