介護保険部会意見の検証 その2(3)

2023.02.15

3.介護老人保健施設等の多床室料の自己負担化

令和6年介護保険法改正意見書の中で、介護保険施設にとって、今後の事業経営を左右する激変の可能性が出てきている。次期計画に向けて結論を得ることが適当であるとされて遅くとも来年夏までに結論を出す事とされた論点の中に、介護老人保健施設や介護医療院の多床室料を全額自己負担とする論点がある。これは、3年前の審議で先送りされた論点の一つであるが、今回の改正審議の中で、再び議論の対象となっていたものである。前回審議での先送り理由は、介護療養型医療施設の令和6年3月の廃止に伴う介護医療院などへの移行を進める課程の中で、多床室の自己負担化を行った場合に影響が避けられないとして、介護医療院への転換を優先させた経緯がありました。しかし、特別養護老人ホームでは、すでに多床室料は全額が自己負担となっています。そのため、不公平であるという意見も根強くあります。令和6年度には、すでに介護療養型医療施設は廃止後で存在しません。すなわち、多床室の自己負担化についての支障が無くなっているのです。

この論点が実現した場合、確実に長期滞在型の介護老人保健施設の経営を直撃するでしょう。長期滞在型とは、基本報酬で、「その他型」「基本型」を算定する介護老人保健施設を指します。これらの特養化した、お預かり中心の介護老人保健施設を、令和6年改正が直撃する可能性が高まっています。多床室料が全額自己負担となった場合、特別養護老人ホームとの月々の利用者負担額の差が大きくなり、老健の長期滞在者は、割安感の増した特別養護老人ホームに移動する者が増えると予想されます。

介護老人保健施設の介護報酬単価を見たときに、明らかに特別養護老人ホームより高いに関わらず、この長期滞在型の事業運営が維持出来る理由は何でしょうか。それは、介護老人保健施設では、多床室に介護保険が適用されているため、特養との実質的な支払金額に格差が少ないことが大きいと言えます。今、特別養護老人ホームの待機者が大きく減少し、空床も生じている現状から、特養はその受入が可能で、入所者の移動が起こることが想定されています。さらに、特別養護老人ホームが要介護1以上の受入を、今以上に可能とする改正が行われた場合には、軽度者であることで特別養護老人ホームに入居出来ないために介護老人保健施設に入居している者の移動も想定しなければなりません。

該当する長期滞在型の介護老人保健施設は、早期に長期滞在型から脱却して、基本報酬の最高位である超強化型を段階的に目指すべきです。また、病院と在宅との中間施設であるという原点に立ち返って、短期集中型のリハビリテーションに徹底して取り組み、成果を求めるべきです。そのためには、LIFEの活用を積極的に行っていくことが重要でしょう。

ただし、すべての介護老人保健施設に影響が出る訳でもありません。多床室に入居している入所者が、生活保護者であった場合には、補足給付によって充当されるために影響はありません。

その他にも、自己負担2割の対象の拡大という論点も、夏までに結論が出される事から、介護施設経営を直撃する課題となっています。特に老健の経営陣は、危機感を持って、今年の夏まで継続される改正審議を注視しなければならないのです。


小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。