コロナ禍で進むICT化とその普及への課題(2)
【第二回】進むICT化の波
・介護記録ソフトで、記録から請求までを一気通貫に
令和3年度介護報酬改定で導入されたLIFEによって、大きく脚光を浴びているのが、介護記録ソフトです。基本的には、日々の介護記録において、タブレットを用いて入力することで、自動的にコンピュータにデータが蓄積されて電子データ化されます。介護計画書やアセスメント、スクリーニングなどの日常業務を、介護記録ソフトを介して行う事で、LIFEへのデータ提供がオートメーションで行う事が可能となります。実際、LIFEに情報を提供するために、3ケ月に一度、全利用者の介護計画書等を手入力で行うことは非効率的で職員の負担も大きいと言えます。特に、複数のLIFE関連の加算を算定する場合は尚更です。その購入費用は決して安い物ではありませんが、先のICT導入支援を活用することも出来ます。また、LIFE関連の加算をしっかりと算定する事で、短期間で設備投資は回収できます。その後は、LIFE加算は確実に収益の向上に貢献することとなります。
・AIによるケアプラン作成システム
AIによるケアプラン作成システムも複数、登場しています。令和3年度介護報酬改定で居宅介護支援事業所の逓減制が見直され、ケアマネジャー一人あたり39件が上限であった基本報酬区分Ⅰが、ICT化などを図ることで、44件を上限とする緩和策が導入されました。このICT化の一つに、AIによるケアプラン作成システムも対象となっています。このシステムは、自治体と契約して利用者データをデータベース化して、そのエビデンスを根拠として、利用者毎に想定される、ADL,IADL,認知症などの将来予測を行い、身体の状況の改善に繋がる複数のプランを提示して、ケアマネジャーが最終的に選択する仕組みです。ケアマネジャーは、自治体の実データというエビデンスを根拠として、質の高いケアプランをストレスなく作成することが可能となります。また、その根拠となるデーターを利用者、家族に提示して同意を得ることが可能です。しかし問題があります。身体機能についてはAIでも可能でしょうが、介護はそれだけではありません。人としての尊厳、家族との関わりなど、多くの要素が求められます。そのため、令和6年度介護保険制度改正の意見書においても、まだ研究が必要とされています。
・コロナ禍でICT化の時計が10年進んだ
ICTの活用は、目的では無く、あくまでも手段であって、その先にケアの品質の向上、職員の生産性の向上があります。例えば、ZOOMなどが普及して、後日配信も増えたことで、オンライン研修によって時間の拘束が無くなり自由度が増しました。夜勤者が、眠い目をこすって参加型の研修に出る必要がなくなったのです。これだけでも効率化は実現出来ています。ICT化に於いては、職員が楽になった、導入して良かったと感じないと、決して成功とは言えません。それが職員に選ばれなければ無用の長物であって、逆に職員の離職原因になることを認識しなければならないのです。
コロナ禍によって、社会保障に新たな課題が出てきました。オンライン診療やオンライン面会等の非接触サービス提供を促進するため、介護施設などでのタブレットやWi-Fi等の導入支援を強化するための補助が実施されたのです。コロナ禍で会議の方法が大きく変わりました。対面での飛沫感染リスクのため、一般企業の多くが取り入れたテレワークは、介護サービスでは実現性が乏しく、ICT化が遅れる傾向にあります。業務の引き継ぎや申し送りは、どうしても口頭での指示が多くなります。しかし、他の事業所との打ち合わせについては、複数人で集まることへの感染リスクもあって実施することが困難になっていました。また、利用者の自宅で実施するサービス担当者会議なども同様です。その為、必然としてインターネット会議のシステムを利用する傾向が一気に拡大しました。コロナ禍の影響で、介護業界のICT化の時計が10年進んだといえます。
そして、いかに短時間で効率的に業務を熟すかが、改めてクローズアップされました。それは、日常的なケアも、計画書や記録の作成などの間接業務も同様です。紙の記録を、改めてコンピュータに打ち込み直すという二度手間は大きな時間ロスであり、職員の負担です。LIFEの普及もあって、介護記録ソフトの伸びが著しいと言えます。今年からスタートするケアプランデータ連携システムも同様の効果があって、特にケアマネジャーからの期待が大きいのです。今まで、3日掛けていた給付管理ソフトへの提供表データ入力が不要となるため、2日ほどの時間短縮になるからです。インカムの普及も、対面での会話の機会を減らすと共に、施設内の移動時間の大幅な短縮に繋がります。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。