コロナ禍で進むICT化とその普及への課題(3)
【第三回】業務の標準化の必要性
・コロナ禍の収束傾向で増加する運営指導
長引くコロナ禍の中で、5月からの五類移行が予定され、徐々に介護業界も以前の状態に戻りつつあります。実地指導改め、運営指導もコロナ前の状況に戻りつつあるのです。運営指導については、昨年の秋頃から実施件数が伸び始めています。令和4年3月に発出された介護保険施設等指導指針に於いて、運営指導の実施については、在宅サービスは6年、施設と居住系サービスは3年に1回以上の実施が望ましいとされています。問題は、従来は2年から3年間隔の指導が、5年、6年とその実施期間が開いていることにあります。この間に介護保険制度も介護報酬も変わっています。LIFEもスタートしています。しかしながら、コロナ禍の影響で、集団指導はオンラインでの実施となり、セミナーの開催も大きく減少しました。その結果、職員レベルで対応出来ていない介護施設が増えています。さらに、担当者が変更したり退職している場合、後任の担当者はまったく引継ぎがされていないケースも多く見かけるようになりました。コロナ前は2年から3年程度で役所が指導に来てくれたため、誤った制度の解釈があっても短期間で是正が出来ました。それが、長期間にわたって誤った知識や解釈で日常の運営がされてきている施設が増えています。
・ICT化に移行仕切れない事例
LIFE加算を多数算定していますが、この2年間でLIFEにデータが提供されたのが過去に一回だけというケースもありました。この事例では、経営陣がLIFE加算を算定していることを知らなかったと言います。介護記録ソフトを細かく精査していくと、計画書の作成であったり、記録の記載についても多くの問題が発覚したのです。この介護施設も、当時の担当者はすでに退職しており、後任の担当者はただアタフタとするばかりでした。介護記録ソフトを導入しましたが、現場レベルで活用されていない介護施設も多く見かけます。最たる例が、現場レベルでは、未だに紙ベースで記録が作成されていて、後で介護記録ソフトに手入力しているケースです。タブレットも最初は導入したが、現場では高齢の職員が多く、使いこなせないという理由で紙ベースの記録に戻ってしまった事例もあります。そもそも、介護記録ソフトは、紙ベースで記録を作成して、後でパソコンに手入力する2段階のプロセスを、タブレットに入力するだけの一段階で完結させるためのICT機器です。これでは、導入の意味がありません。さらに、紙ベースでの保管がされなくなった事から、計画書や記録の内容をチェック出来る担当者が限られ、逆にコンプライアンス全体が悪化している状況も見え隠れします。
・業務マニュアル整備の必要性
この根本的な原因を探っていくと、介護施設内に業務マニュアルなどが整備されていない状況に行き着きます。そのため、担当者の移動や退職で十分な引継ぎがされずに、後任者も正しい業務手順を把握できない状況に陥り、今の手順が誤りである事の認識も無いまま時間が進んでいるのです。これらの状況は、運営指導等で指摘されない限りは表面化しません。本当に恐ろしい状況となっている介護施設が、まだまだ存在している可能性があります。現場で精査すると、このような状況が浮かび上がっています。コロナ禍は、感染やクラスターで介護施設に多くの脅威を与えてきました。しかし、介護施設での本当の脅威は、コロナ禍の裏側で、内部体制が時間の経過の中で崩れていることかも知れません。折角、素晴らしい介護記録ソフトを導入したのです。職員が喜ぶ運営の仕方を実践しましょう。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。