業務継続に向けた取組の強化(BCP)〜感染症編〜(1)

2023.04.05

【第一回】感染症対策の指針と感染症BCPの違いを知る

今回からは、第二回で解説した自然災害BCPに続いて、感染症BCPの作成について解説します。前回から8ヶ月が経過しましたが、自然災害BCPはすでに完成していると思います。義務化となる令和6年4月まですでに一年を切っていますので、頑張って、感染症BCPも完成させていきましょう。

感染症対策の指針は、感染予防とクラスターの防止が主な目的です。感染症対策もBCP同様に令和6年4月から義務化されますので、同時並行で作成するのも良いかも知れません。平常時の対策の部分で感染症BCPと重なる所も多くあります。その作成のポイントとしては、事業所内の定期的な消毒や環境整備などの衛生管理の方法。手洗い、換気など、ケアにかかる感染対策などを記載します。発生時の対応としては、感染者が発生した場合状況、感染経路などの把握の方法、クラスターとしないための感染拡大の防止策、医療機関や保健所、市町村における事業所関係課など関係機関との連携の方法、行政等への報告の方法などを記載します。また、感染者が発生した時の、事業所内の連絡体制や関係機関への連絡体制を整備して明記する必要があります。それぞれの項目の記載内容の例については、厚生労働省からの「介護現場における感染対策の手引き」が出されていますので、こちらを参考に記載します。

これに対して、感染症BCPは、施設、事業所内で感染者が発生し、クラスターとなった場合の対応策が中心となります。この点が、感染対策指針との大きな違いと言えます。感染対策指針と被る部分も多いのですが、根本的な違いがあります。それは、作成の目的です。感染症対策BCPは、介護事業を運営する法人が、感染症によって収束まで長期にわたるクラスターが発生しても、倒産や廃業、事業の縮小に追い込まれること無く業務を継続することを最大の目的としています。それは、介護福祉事業は地域の高齢者のライフラインとして、介護サービスの継続的な提供が求められるからです。仮に、感染状況が悪化して休業を余儀なくされた場合も想定して、他の事業所との協力関係などを事前検討していきます。

介護施設等でクラスターが発生した時の最大の経営リスクは、職員の多くが濃厚接触者に認定されることにあります。濃厚接触者に認定されると、PCR検査が陰性でも基本ルールとして2週間は自宅待機を余儀なくされる。現在の5日間の自宅待機と検査結果が陰性で職場復帰は、あくまでも特例的な措置ですので、将来的に全く別のウィルスが発生した場合は2週間の自宅待機となる事を感染症BCPに記載しておきます。

その場合の措置として、グループ内または提携先施設からの応援を依頼するなどと記載した指針やBCPを見かけます。しかし、実際にクラスターが発生した施設に、応援で職員を派遣することはグループ内であっても希であると言えます。派遣した職員が感染して自分たちの施設に持ち込んだ場合、自らの施設がクラスターとなるリスクが高いからです。そのため、自施設内だけで食い止めることが求められます。感染症については特に、危機管理が問題となります。頭で考えた対策と、研修や訓練で体験する現実とでは離反が大きいと言えます。


出典:新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン 厚生労働省

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。