業務継続に向けた取組の強化(BCP)〜感染症編〜(4)

2023.04.26

【第四回】濃厚接触者への対応と業務内容の調整

濃厚接触者と判断された場合は、コロナウィルスに感染している可能性があるために、患者と接触した後 14 日間は健康状態に注意を払い(健康観察)、外出は自粛するなど保健所の指示に従うことになります。患者の同居家族は基本的に濃厚接触者と判断されます。すなわち、職員が濃厚接触者となった場合、2週間は出勤出来ないこととなり、介護サービスの提供に大きな支障を生じさせることなります。介護施設での職員の認定のポイントは、マスクの着用なし、1 メートルの距離、感染予防策なしで患者と15 分以上の接触がカギとなります。これらに該当する場所は、職員食堂やロッカールームなどで、特に食堂では、密を避けるために時間をずらしての食事と、声を出さない黙食を徹底することが大切です。また、入所者、利用者への介護も15分以内で終了し、必要に応じて、2回に分けて介護するなどの工夫が大切になっています。

感染症BCPを作成する中で、クラスターが発生して、職員の多くが濃厚接触者に認定された場合の職員の確保策として、協力関係にある介護施設に応援を依頼する。同一グループである介護事業所から職員を派遣させるなどの対策を盛り込みがちである。しかし、実際にクラスターが発生した施設には、他の施設からの応援は困難であったとする事例が多いのが現実です。それは、同一グループでも同様である。逆の立場で考えると、これは当然と言えます。自分の施設の職員を、クラスターが発生した施設に応援に行かせて、その職員が感染した状態で戻ってきた場合、自分の施設でもクラスターが起こるリスクが高いからです。現実的には、他の施設からの応援どころか、濃厚接触者となった職員だけでなく、派遣社員やパート社員は出勤しなくなります。また、健康な職員も、家族が出勤に強く反対するなどで、更に出勤率が低下することも想定しなければなりません。

職員が感染者や濃厚接触者となること等により職員の不足が見込まれることから、勤務が可能な職員と休職が必要な職員の把握を行いながら、勤務調整を実施します。また、人員基準等の制度上の成約については、クラスターの発生のように不測の事態の場合は、指定権者へ相談した上で調整を行います。この事前協議を行わずに配置人数を減らした場合は、復旧後に、人員基準減算等が問われる事になるからです。 勤務可能な職員に状況の説明を行ったうえで、緊急やむを得ない対応として平時の業務以外の業務補助等への業務変更を行うなど、入所者の安全確保に努めるシフト管理を行います。職員数に余裕があれば、業務シフトを変更で対応し、同一法人内からの支援も検討します。勤務時の移動について、感染拡大に考慮して近隣の事業所からの人員の確保を検討します。特に看護職員等については緊急時の対応が可能な状況の確保に努めます。

自然災害の場合は、被災当初こそ職員の出勤率が低く、停電や断水が起こって、優先事業や優先業務を絞り込む必要がありました。しかし、日の経過と共に、出勤率は回復し、停電なども復旧して、一週間を目安に普及が見込まれますので、その時間の経過に沿ったBCPを作成します。しかし、感染症の場合は、濃厚接触者に認定された場合は2週間の自宅待機となり、他の施設や事業所からの応援も余り期待出来ません。また、派遣社員や委託業者の職員は出勤しなくなるため、それ以上の欠員が生じる可能性が高いと言えます。クラスターが発生した場合、小規模でも一ヶ月、大規模ですと二ヶ月から三ヶ月を復旧までに要します。自然災害のように一週間頑張ればと言う目処も立てることが出来ません。 自然災害同様に、現在提供している介護サービス業務を、その重要度に応じて分類します。次に、感染者・濃厚接触者の人数、出勤可能な職員数の動向等を踏まえて、提供可能なサービス、ケアの優先順位を検討します。それによって、委員会で、出勤率に応じて提供する介護サービス業務の絞り込みや業務手順の変更を行い、BCPに記載します。

出典:厚生労働省 感染症対策マニュアル P93

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。