令和6年介護保険法改正(2)

2023.06.14

【第2回】財務諸表の提出の義務化

令和6年介護保険法において、財務諸表の提出と公表の義務化が確定しました。現在は、社会福祉法人や障害福祉事業者には財務諸表の提出と公表を義務化しています。今回の制度改正では、介護サービス事業者についても同様に財務状況を公表することとされました。先に義務化されている障害福祉事業者では、その提出状況が芳しくないという事実も指摘されていました。その理由は、義務化に伴う罰則規定が無い事が挙げられ、介護サービスに於ける義務化で、罰則規定が有るか否かも注目されていました。

今回の改正に於いての罰則規定は、未提出もしくは虚偽の報告をした場合に、提出もしくは是正を命令できること。命令に従わない場合は、業務停止もしくは指定取消とすることが出来ることが明記されました。この罰則規定は今後、障害福祉事業者についても同様の取扱になると思われます。

介護サービス事業者が財務諸表等の経営情報を定期的に都道府県知事に届け出ることが義務化され、その提出方法として、社会福祉法人と同様に、情報提供のための全国的な電子開示システムとデータベースが整備される事となるでしょう。

厚生労働省は、介護事業所の決算データ収集を、3年毎に実施される経営実態調査の中で行っています。しかし、これは全事業所に対してでは無く、一部の事業所へのサンプル調査であり、介護業界全体の財務状況を的確に把握する事は困難でした。今回の義務化によって介護事業者の財務データをデータベース化することで、介護報酬改定や処遇改善の実施に於いてのエビデンスが高まり、より的確な政策をとることが出来るとされています。

問題は、提出する決算データは、単に税務署に提出した決算書の数字では無いと言うことです。すべての介護事業者は、「会計の区分」に従って財務諸表を作成することが義務化されています。「会計の区分」とは、厚生省令37号などの各サービスの解釈通知に規定された運営基準の一つです。同一法人で複数のサービス拠点を運営している場合は、その拠点毎に会計を分けなければなりません。これを「本支店会計」と言います。例えば、訪問介護と第一号訪問事業、居宅支援事業所、障害福祉サービス、自費サービス、一般事業などの複数のサービスを営んでいる場合は、それぞれを分けて会計処理を行う必要があります。これを「部門別会計」と言います。会計を分けるとは、少なくても決算書を作成する時点で、損益計算書をそれぞれ別々に作成するということです。収入だけでなく、給与や電気代、ガソリン代などすべての経費を拠点毎、部門毎に分けなければなりません。これは、税務署に提出する決算書には求められていない作業です。しかし、すべての介護事業者は、解釈通知に記載された運営基準要件であるため、行っている必要があるのです。

厚生労働省からは、複数の会計方法が示されています。収入については、国保連合会から提供される明細書で簡単に振り分けることが出来ます。経費については日々の取引から、各部門に会計伝票を分けて記載することが基本となります。日常の経理で明確に分けることの出来ない経費は、共通経費としてまとめて、月末や決算時に「按分比率」というものを使って各サービスの部門に割り振ります。これを共通経費按分と言います。「按分比率」の基準として厚労省から、「延べ利用者数割合」などの例示が出ています。ただ、それほど厳密に考えることはなく、運営指導で担当者に説明できる合理的な基準を用いていれば問題はありません。これを運営指導で指摘された場合、通常は三年前に遡って会計の区分に沿った決算書の再作成と提出が求められていました。 会計の区分については、今回、改めて求められた作業では無く、従来からの運営基準の要件です。会計の区分は、税務会計とは全く別物であり、この基準がある事を多くの会計事務所はまだ知らないですし、会計の区分に対応出来ない可能性もあります。そのため、会計事務所に任せているからは危険です。やはり、介護事業に精通して居る会計事務所を選ぶ必要があります。

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001011997.pdf

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。