令和6年介護保険法改正(3)

2023.06.21

【第3回】今夏までに結論が出される3つの論点

昨年12月20日に社会保障審議会介護保険部会介護保険制度の見直しに関する意見」が取りまとめられたなかで、①、自己負担2割の拡大、②、1号保険料負担の高所得者の標準乗率の引上げ、③、介護老人保健施設などの多床室の自己負担化の3つの論点は、次期計画に向けて結論を得ることが適当であるとされています。そのため、遅くとも年夏までに結論を出す事とされています。この6月にも閣議決定される骨太方針2023がひとつの分岐点となるでしょう。これは、医療保険の自己負担拡大が重なっていることからの措置とされています。しかし、内閣の支持率の低下と4月の統一地方選の影響を回避したとの見方も出来ました。いずれにしても、3つの論点については、2024年度改正で実現したいという強い意志を感じます。令和6年度介護保険法は5月12日に通常国会で成立しました。しかし、今回の制度改正は二段階での審議となり、今夏までに結論が先送りされた3項目がこれからの焦点となります。これらが実施となった場合、秋の臨時国会で再び改正介護保険法案が審議されると思われます。  

4月の統一地方選挙が想定内の結果に終わったことで、自己負担2割の対象となる年間所得金額の引下げが現実味を帯びてきたと言えるでしょう国は以前から、介護保険負担金を原則2割とする方針を掲げています。しかしながら、一気に2割負担に移行させることはなく、段階的に拡大していく方針をとっていのです 

医療保険においては昨年10月から、年間所得200万以上の後期高齢者に対して自己負担2割が適用されました医療保険において後期高齢者の自己負担2割が導入されたことにより、すでに介護サービスにもその影響が出始めています自己負担が2割となっても、受給される年金金額が同じであるため、高齢者はやりくりに苦慮していますこれまで、買っていた物を買わなくなる。使ってたものを使わなくなる。そのやり繰りの対象は、介護保険サービスも例外ではありません 

コロナ禍による経済的な打撃や、利用者の介護サービスを敢えて使わないという認識の高まりによって、介護サービス業界は苦境に立たされています。特にデイサービス業界は、利用者数が元に戻らずに経営体力の弱い小規模事業所が倒産するケースも出ています令和6年からの介護保険における自己負担2割が確定した場合、介護サービス全体大きな影響を与えるでしょう今後は今まで以上に利用者のニーズに合ったサービスを提供することが求められことは間違いありません 

自己負担2割対象者の拡大ともに、結論が今年の夏まで先送りされた項目に介護老人保健施設などの多床室料の全額自己負担化があります。この論点が実現した場合、確実に長期滞在型の老健の経営を直撃するでしょう。多床室料が全額自己負担となった場合、特養との月々の利用者負担額の差が大きくなり、老健の長期滞在者は、割安感の増した特養に移動するケースも増えます。老健の介護報酬単価を見たときに、明らかに特別養護老人ホームより高いに関わらず、この長期滞在型の事業運営が維持出来る理由は何でしょうか。それは、老健では、多床室に介護保険が適用されているため、特養との実質的な支払金額に格差が少ないことが大きいのです。今、特養の待機者が大きく減少し、空床も生じている現状から、特養はその受入が可能で、入所者の移動が起こることが想定されます。該当する老健は、早期に長期滞在型から脱却して、基本報酬の最高位である超強化型を目指すべきです 

 

 

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。