令和6年介護保険法改正(4)

2023.06.28

【第4回】財政制度分科会の提言 

介護保険法が成立したことで、これから令和6年度介護報酬改定の審議が本格化します。財務省は、6月の骨太方針2023策定を前にして、財政制度分科会において重要な提言を行う事を慣例としています。この財政制度分科会の提言のポイントは何でしょうか。 

①、介護老人保健施設は、居宅復帰を前提として、急性期における機能回復のためのリハビリなどのサービスを提供する施設で。この趣旨に基づき、短期的なリハビリを想定した人員配置や報酬体系が採用されていますしかし、介護老人保健施設では利用率の減少が見られており、また長期間滞在する利用者(特養への入所待ちなど)も相当数存在しています。このような状況を踏まえ、利用者の実態や地域のニーズに即して、老健そのものを特養へ移行することや特養に近い形の人員配置や報酬体系を検討する必要があるとしましたこれは、介護老人保健施設の新たな方向性を示した重要な論点となるでしょう。  

②、介護事業者の人材採用において、約5割の事業者が民間の人材紹介会社を活用しています。しかし、手数料の相場水準は年収の30%程度とされていて、高額の経費を支払っている事業者も存在します。また、人材紹介会社を介した採用の場合、離職率が高いという調査結果もあり、安定的な職員の確保には必ずしもつながっていません介護事業者向けの人材紹介会社に関しては、就職お祝い金の禁止などの現行の規制の徹底や手数料水準の設定など、一般の人材紹介よりも厳しい対応が必要とされました特に就職お祝い金は、雇用した職員の短期間離職に直結しており介護事業者の収益率と人材不足を悪化させている要因です。この提言は非常に重要であり、早期の制度上の規制対応が求められるでしょう。 

③、サービス付き高齢者向け住宅において、同一の建物に居住する高齢者に対して特定の事業者が集中的にサービスを提供して、画一的なケアプランや過剰なサービスを提供しているなどの問題が指摘されています。ケアマネジメントについては、サ高住の入居者がいる場合、所要時間が他の場合に比べて約30%少ないそうです。これらの実態を考慮して、サ高住でケアマネジメントを提供する事業者には、同一建物減算を適用すべきであるとされまし。さらに、利用者が同一建物に集中している場合には、訪問介護などにおいてもさらなる減算が行われることで、適正化が図られるとしています財務省は、サ高住等における画一的なケアプランや過剰なサービスの問題に対処するためには、ケアプランの点検と見直し、そして同一建物減算や訪問介護における適正化が重要と考えていますこの点については、令和6年度介護報酬改定においても、重要な論点となっていくでしょう。  

④、介護保険法では、要介護者が自立した日常生活を営むために介護サービスが行われるべきであり、報酬は要介護度が進むにつれて高くなる一方、自立支援や重度化防止に対する評価が不十分で。例えば、ケアマネジメントの場合、要介護3・4・5の基本報酬が要支援1・2の3.2倍となっている一方で、労働投入時間で見ると要介護3は要支援1の1.3倍程度に過ぎませんさらに、特定事業所加算の要件には要介護3・4・5の利用者の割合が4割以上であることが含まれていて、要介護3・4・5への評価が十分に手厚いこと指摘されました。介護保険法の趣旨に照らして、自立度や要介護度の維持・改善などのアウトカム指標を重視した枠組みが重要で介護保険制度においては、自立支援や重度化防止に関する取組の評価が不十分で、アウトカム指標を重視した枠組みへの転換をこの提言では求めています居宅介護支援事業所の報酬については、令和6年度からLIFEの活用を評価するLIFE加算の創設が検討されています。令和6年度介護報酬改定においては、基本報酬が一本化されて、LIFEの活用を評価する報酬体系になる可能性が出てきたといえます。 

今回提言された財務省の意見が、どこまで6月に閣議決定される骨太の方針2023に盛り込まれるのか。そして、今後の介護報酬改定審議にどの論点が盛り込まれるのか。本格的に審議がスタートした介護給付費分科会が注目されます。 

 

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。