介護保険法とは何か。その改正の歴史 (4)

【第4回】 これまでの介護保険法改正③
2021年度の改正
2021年介護保険法改正については、比較的小規模な改革に留まっています。介護事業者に直接に影響のある改正は、2024年改正に先送りされています。 その主な内容は、以下の通りです
①通いの場の充実とボランティアへのポイント制の導入
通いの場とは、総合事業におけるサービスB(住民主体のサービス)の一つの類型です。通いの場を運営するのは、自治体では無く、町内会、商店会などを中心とした住民によるボランティアを中心とした運営となります。その為、ボランティアの確保が重要な課題です。また、地域の高齢者の参加を促進させることも重要です。介護予防事業の推進では、通いの場の類型化等を進めるとともに、ポイント付与や有償ボランティアの推進等、参加促進を図るための取組を進めることが重要とされました。ポイント付与とは、地域住民がボランティアとして通いの場に関わったり、介護予防等を目的として65歳以上の高齢者がボランティア活動を行った場合にポイントを付与する仕組みです。たまったポイントに応じて、商品交換、換金等を行う事が出来ます。人材確保のためのポイント制度として、地域医療介護総合確保基金を活用した「介護人材確保のためのボランティアポイント」があります。今回の改正では、総合事業の利用は、要支援認定者などに限られます。2021年の改正では、利用者が要介護認定を受けた後も、希望すれば総合事業の継続利用を可能とする改正が盛り込まれました。実質的に総合事業の利用枠を要介護認定者まで拡大することとなりました。これらの取組は、近い将来の軽度者の総合事業への移行を想定しての準備対策の意味も含まれていると考えるべきです。
②社会福祉連携推進法人の創設
社会福祉連携推進法人は、社会福祉協議会福祉部会で審議された新たな法人体系で、2022年4月からスタートしました。介護事業の大規模化の類型であり、特に地方都市に於ける人材確保や事業拡大における期待が大きいといえます。主なメリットとして、法人の規模が大きい社会福祉連携推進法人が人材の募集を行う事で、単独の法人で行うより有利に求人が出来ること。職員研修も一体で提供する事で講師などのコストを抑え、レベルの高い研修を実施出来ること。介護ロボット、見守りセンサー、ICT機材などの共同購入の実施。などです。また、現在の法律では社会福祉法人間の貸し借りは認めていませんが、社員である社会福祉法人が連携法人に貸付、それを原資として連携法人は他の社員である社会福祉法人への貸付する形で、実質的に社会福祉法人間の貸借が可能となっています。
③重層的支援体制整備事業の創設
地域包括センターなどの相談支援業務を強化して、8050問題を抱える地域住民などへの支援体制のため、1、断らない相談支援、2、参加支援、3、地域づくりに向けた支援を市町村が一体的に実施する事業です。社会問題化している8050問題とは、中年に達した引きこもりの子が同居する世帯において、親が80才、子が50才を迎えて、親の介護の問題と子の生活維持の問題が同時に起こることを言います。この状況に陥った家族が、役所などの相談窓口でたらい回しになったあげく、悲劇的な事件に繋がることも実際に起こっていました。その対策として、介護(地域支援事業)、障害(地域生活支援事業)、子ども(利用者支援事業)、困窮(生活困窮者自立相談支援事業)の相談支援に係る事業の役割を地域包括支援センターなどに一本化しました。
2021年改正が小ぶりな改正というイメージが強いのは、介護事業者に直接に影響する改正論点が、すべて2024年改正審議に先送りされたことによります。そして、2024年制度改正は、介護事業者を直撃する改正となったことはご存じの通りです。

小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。