令和6年介護報酬改定を取り巻く諸問題の総括(3)

2023.08.23

【第3回】居宅介護支援事業所の収支差率が大きく増加傾向に

前回、デイサービスの収支差率が大幅な減少傾向にあることを示しました。それに対して、コロナ禍で多くのサービスの数字が低下している中で居宅介護支援事業所の収支差率は大きく増加傾向になっています。居宅介護支援事業所における収支差率は、4,0%と、前年令和3年度の数値2,5%から大きく上昇しています。今回は、この上昇要因を推測します。

令和3年度介護報酬改定に於いて、基本報酬算定における逓減制が限定付きで緩和され、担当件数が39件から44件となりました。介護給付費等実態統計月報(令和4年10月審査分)を見たとき、その算定率は全体の1割弱という状況で、決して高くはありません。令和4年10月審査分の請求事業所数が37,509と、令和2年10月審査時の38,407から2.3ポイント減少しています。しかし、特定事業所加算の算定事業所数は1800件と、令和2年の1,679から7.2ポイント増加していました。請求事業所数の減少につきましては、全介護事業所中で最も居宅介護支援事業所の平均年齢が高いことから、引退による廃業も要因のひとつです。同時に、特定事業所加算を算定するために、小規模事業所が統合されてケアマネジャーが3人体制以上の事業所に再編成が進んでいることも考えられるのです。特定事業所加算Ⅲを算定するだけでも、基本報酬が1.3倍に増額されることから、収益率アップの大きな要因となっています。介護事業の経営モデルは、スケールメリットの追求にあります。同じ事を、同じように行っていても、経営規模が大きいほど収支差率が上昇する傾向にあります。居宅介護支援事業所も例外ではなく、特に特定事業所加算の算定に必要な主任ケアマネジャー1名+常勤ケアマネジャー2名以上となることが、収益安定化の必須要素となっています。

ここで問題となるのが、なぜ再編成が進んでいるのかという点です。小規模事業所の多くは、在宅サービスの併設型で、訪問介護や通所介護とのマッチングです。在宅サービス事業所は、居宅介護支援事業所を併設して新規利用者の獲得を増やす事を目的としていることが多くありました。しかし、特に訪問介護と通所介護事業所数が大きく増加して競争が激化し、居宅介護支援事業所の併設が、新規利用者の獲得に繋がらなくなってきたのです。そのため、コロナ禍によって在宅サービスの収益率も大きく減少したことから、赤字体質の小規模居宅介護支援事業所の切り離しが進んでいます。その事が、居宅介護支援事業所の3人体制以上への再編成の要因の一つと思われます。居宅介護支援事業所は、自然の流れの中で、大規模化が進んでいることになります。

そして、5月11日に開催された財務省の財政制度分科会における提言においては、居宅介護支援事業所への同一建物減算の摘要が示されました。これは、今後の介護報酬改定審議においても大きな論点になるでしょう。また、ケアマネジャーのなり手が減少していると共に、高齢化が進む現状に対して、居宅介護支援事業所のケアマネジャーに対する処遇改善加算の創設を求める声も高まっています。この論点については、前回令和3年度介護報酬改定審議でも取り上げられて実現の可能性も高まったのですが、ケアプランの有料化と紐付きであったことから実現には至りませんでした。今回の実現の可能性は、決して低くはないと見ています。令和6年度介護報酬改定においても、重要な論点となっていくでしょう。

 

出典 財政制度分科会(令和5年5月11日開催)資料

財政各論③:こども・高齢化等

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。