令和6年介護報酬改定を取り巻く諸問題の総括(4)

【第4回】人材紹介会社への規制強化が打ち出された
7月10日に開催された社会保障審議会介護保険部会において、職業紹介・労働者派遣についての規制強化が論点にあがりました。
これは、5月11日の財務省財政制度分科会において定義された論点でもあります。介護事業者の人材採用においては、約5割の事業者が民間の人材紹介会社を活用していますが、手数料の相場水準は年収の30%程度が請求されます。それ以上の高額の経費を支払っている事業者も存在しています。人材紹介会社を介した採用の場合、離職率が高いという調査結果があり、安定的な職員の確保には必ずしもつながっていないという指摘です。介護事業者向けの人材紹介会社に関しては、就職お祝い金の禁止などの現行の規制の徹底や手数料水準の設定など、一般の人材紹介よりも厳しい対応が必要であるとされました。特に就職お祝い金は、雇用した職員の短期間離職に直結し、介護事業者の収益率と人材不足の悪化要因となっているとされています。
これを受けて、6月16日に閣議決定された骨太の方針2023に於いて、医療介護分野における有料職業紹介事業について、関係機関が連携して事業の適正化に向けた指導監督や事例の周知を行うとともに、公的な職業紹介の機能の強化に取り組むべきと記されました。同日、令和5年「規制改革実施計画」が閣議決定しています。それをベースに、7月10日の介護保険部会に於いて審議されて、概ね了承されています。
規制改革実施計画および介護保険部会の審議のポイント
①悪質な職業紹介事業者の排除として、医療・介護・保育3分野の有料職業紹介事業者に対して、転職勧奨・お祝い金規制に係る集中的指導監督の実施。
②有料職業紹介事業の更なる透明化として、3分野の紹介手数料の平均値・分布、離職率について、地域ごと、職種ごとに、公表。
③優良な紹介事業者の選択円滑化として、3分野適正事業者認定制度の認定基準に、6か月以内に離職した場合に返戻を行うことの追加を含め、認定基準の見直しについて検討。
④ハローワークの機能強化として、オンライン上での求人・求職者の利用推進とハローワークごとの職種別就職実績を毎年度公表。
行政指導の強化と6ヶ月以内の退職に伴う紹介料返還はかなりきつい対応と言えます。紹介料返還は3ヶ月以内とする紹介業者が多いのが現状だからです。これが実現した場合には、紹介業者も求職者への事前研修やフォロー体制を強化するのではないかと思われます。実際に現場サイドの実感としては、雇用後、3ヶ月経過後の退職が多いと実感している介護事業者が多いようです。
ただし、早期退職については、必ずしも紹介業者側の問題や就職祝い金の存在だけが原因ではありません。雇用する介護事業者側にも問題があります。職員は、たとえ就職祝い金があったとしても、辞めることを前提に仕事を探すことは無いのです。就職先で、何らかの問題があったからこそ、辞めることを選択したはずです。2040年には69万人の介護職員が不足するとの予測も厚生労働省から出されています。職員を受け入れる介護事業者側も、しっかりとしてフォロー体制を構築して、定着率の向上が急務となっています。退職者が出たら、募集すれば新しい職員が来てくれた時代は、とうに終わっているのです。一時的な処遇改善で賃金を高くしても、その効果は一瞬で、翌月からは既得権に変わります。必要以上に賃上げを行う余裕があるのであれば、その資金は、教育研修に充てるべきです。その結果として、職員のスキルアップと介護サービスの質の向上が実現します。利用者満足が上がり、稼働率、利益率が上がります。その上で、十分な賃上げを行って職員に応えれば良いのです。そのような、好循環を作ることが大切です。
出典:第107回社会保障審議会介護保険部会の資料について
令和5年7月10日(月)資料1-3 職業紹介・労働者派遣について

小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。