令和6年度介護報酬改定審議の動向 (2)

令和6年度の介護報酬改定審議は最終ラウンドに移りました。12月のとりまとめまでラストスパートの段階です。今回の改定審議の大きなテーマが、介護報酬の簡素化と指定基準の緩和であり、複雑になりすぎた算定要件などを可能な限り分かりやすく、シンプルにする方向が出されています。また、メリハリのある改定もキーワードとなっています。単に新たな加算を創設したり、介護報酬単位を引き上げるのでは無く、重要な項目を引き上げるとともに、重要性の薄くなった項目を引き下げることでバランスを取るという意味です。このため、収入が増える事業所がある反面、収入の減る事業所も同時に存在し、二極化が進む可能性が高まっています。
定期巡回サービス、小規模多機能型、看護小規模多機能型のポイント
定期巡回サービス、小規模多機能型、看護小規模多機能型の3つのサービスに共通する「総合マネジメント体制強化加算」が基本報酬に包括される方向が示されました。これも介護報酬の簡素化の一環ですが、サービスを提供する事業者側からは、戸惑いの声が上がっています。総合マネジメント体制強化加算は、月に1000単位という大きな加算です。過去の包括化の事例を見ても、必ずしも現行の報酬に1000単位が乗ることは無いと言えます。実際は、減収に繋がった事例が多くあります。さらに大きな問題があります。総合マネジメント体制強化加算は、区分支給限度額から除外されている加算であることです。除外の理由は、福祉用具貸与などを併用する利用者に限度超過のリスクがあることです。もともと、定期巡回などの3サービスは、共に月額包括型の基本報酬です。その報酬設定は、各介護度の区分支給限度額に近い単価で設定されています。この状態で、デイサービスを併用したり、福祉用具貸与を利用すると限度超過となる利用者が存在します。そのため、この加算を創設したときに、限度超過のリスクを負わないように区分支給限度額から除外したという経緯があります。今回、基本報酬に包括された場合には、区分支給限度額の計算に含める事となり、限度超過となる利用者が出来ることが懸念されるのです。
そのような中で、11月10日に公開された介護事業経営実態調査結果では驚くべき数字が示されました。全事業者平均の収支差率が2.4%である中で、定期巡回サービスの収支差率が11.0%と、平均値の4.5倍であったのです。小規模多機能型、看護小規模多機能型も3.5%〜4.6%と平均を大きく上回っていました。収支差率とは、別名で利益率とも言われます。すなわち、介護業界の平均では、例えば100万円の収入に対して、利益が2.4%、24,000円だと言う意味になります。この調査の目的の一つに、介護報酬改定時の基本報酬を決める際のエビデンスであることが挙げられます。すなわち、平均を大きく上回る介護サービスの報酬を引き下げ、下回るサービスの報酬を引き上げることで、介護サービス毎の収入面での格差を無くして平準化を図ることが行われます。ただし、必ずしもこの数値だけを要因として、介護報酬単位を決める訳ではありません。その他の要因を加味しての総合評価であることは間違いありません。しかし、特に定期巡回サービスの数値が高すぎることから、相応分の基本報酬を引き下げた上で総合マネジメント体制強化加算の包括化が行われるのではないかという懸念が表面化したことも事実です。この点については、1月の下旬にも答申される令和6年度の介護報酬単位の発出を待ちたいと思います。
看護小規模多機能では、訪問看護の利用割合が少ない場合の減算や、緊急時のショートステイの受入を評価する加算などが想定されています。また、認知症加算の上位区分を設ける代わりに、現行の加算区分を減額する方向も示されています。結果として、上位区分の算定要件を満たせない事業所は減収となります。新区分の報酬単位を、従来の下位区分を減額する方法で賄うのですから、トータルでは介護保険の支出は余り変わらないという手法です。この手法は、前回の令和3年度改定でも多用された方法でした。通所サービスの入浴介助加算などで記憶に新しいと思います。今回の介護報酬改定に於いても、介護報酬の簡素化、人員基準の緩和という名の下に、加算の基本報酬への包括化や加算単位の減額の方向性が出たことは重要です。巷では、プラス改定の情報が飛び交い、楽観的なムードが広まっています。しかし、令和6年度介護報酬改定は、決して楽観視出来ないということです。
第231回社会保障審議会介護給付費分科会資料

小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。