審議が終了した介護報酬改定の注目ポイント(1)

第1回:介護報酬改定率は本体0.61%で前回を下回る
全体の改定率は1.59%で、前回(2021年度)の改定率0.7%を大幅に上回りました。施設の光熱費などへの対応分を含めると、実質的には2.04%相当の引き上げとされています。しかし、その数字には、介護職員への処遇改善加算分の0.98%が入っています。つまり、処遇改善加算の無い居宅介護支援事業所等に回るのは残りの0.61%に留まります。それ以外の事業所も、処遇改善加算自体は全額が職員に支給するため、収入とは言えません。実際は前回を下回る結果となったのです。近年の物価上昇を考慮した場合は、実質的にはマイナス改定であると言えます。しかし、当初は大幅なマイナス改定も予想されていた事から、今回のプラス改定は十分に評価すべきものです。また審議開始当初から、業務負担の軽減や報酬体系の簡素化が謳われていましたが、その言葉に反して過去最大規模の激変となり、報酬体系が更に複雑化し、会議の開催などの業務負担が増えたことは大きな問題です。
介護業界内では、マスコミによるプラス改定報道が相次いだこと、業界団体が関係機関に大幅なプラス改定の要望書を提出しているなどによって楽観的なムードが漂っていました。しかし、介護保険の財源は、半分は国民負担の介護保険料で賄われています。介護報酬の引き上げは、介護保険料の引き上げにも繋がるのです。今回の介護報酬改定審議では、何度もメリハリという言葉が飛び交いました。すなわち、どこかを引き上げたら、どこかを引き下げてバランスを取ると言うことです。今回は過去の改定と比べても最大級の激変であり、広範囲に影響をもたらす改定です。経営陣は、最大限の危機感を持って挑む必要があります。実際に、同一建物減算の強化や創設などによって、収入がダウンする事業者も出てくるでしょう。皆が一律でプラスになる事は無いのです。1月末にも答申される令和6年度介護報酬単位が出来次第、今と同じ事を継続した場合の収入のシミュレーションを行ってください。想定以上に報酬が上がらなかったり、減収となる場合は、そのリカバリを図らないといけません。
同時並行で審議されていた介護保険法関連の論点も結論が出されました。一号被保険者の介護保険料負担額においては、高所得者の保険料負担を増やして、低所得者の保険証負担を緩和します。医療系施設の多床室料の自己負担化は、介護医療院のⅡ型と介護老人保健施設の療養型とその他型については、令和7年8月から実施されます。自己負担2割の対象者拡大は見送られて、次期改定に向けた継続審議となりました。
結論を言うと、令和6年度介護報酬改定は、事業者の大規模化を促進するための改定です。さらには、事業所自体の質の向上を求める改定でもあります。また、既存の加算の算定要件が大きく変わります。同じ加算を算定しているからと、今までと同じ事を繰り返していると、運営指導で返還指導となるケースも増えます。現状維持志向は捨てる必要があります。ある意味で、来年度からの介護保険制度は、全くの別物になると考えた方がしっくりするかも知れません。
また、12月18日の審議報告の取り纏めに先行して、12月4日の審議後に運営基準の変更部分がパブリックコメントに挙げられました。1月3日までの公示の後に決定となります。また、12月8日には、居宅介護支援事業所の介護予防支援事業の許認可についてと、全事業所対象の財務諸表の提出の義務化についての、介護保険法施行規則の一部を改正する省令案がパブリックコメントに公示されました。この財務諸表の提出の義務化も、事務員などが雇用されていない小規模な事業所には大きな負担となるでしょう。
厚生労働省 診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について
診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定について[PDF形式:124KB]
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。