審議が終了した介護報酬改定の注目ポイント(3)

2024.01.24

 

第3回:居宅介護支援事業所の事業所間格差が拡大する

 

介護事業の経営モデルでは、スケールメリット、規模の利益の追求が重要となります。厚生労働省は、従来から大規模化を推奨しています。11月10日に令和5年度介護事業経営実態調査結果が公表されました。利用者数が少ない、すなわち小規模事業所ほど赤字であることが表面化しています。そして、利用者数が多い、事業所規模が大きい事業所ほど収支差率が高くなる傾向は、全サービスに共通です。同じ事を同じようにやっていても、事業所規模が大きくなるほど手元に残る利益が高くなるということです。これをスケールメリット、規模の利益と呼びます。令和6年度介護報酬改定では、更に事業規模間格差が拡大します。小規模の事業所運営はより厳しさを増すでしょう。

 

居宅介護支援事業所の改定事項は、共通項目4件、独自項目で17件の計21件に及びます。今回の改定で、介護支援専門員1人当たりの取扱件数が、39件から44件に拡大され、ケアプランデータ連係システムを導入し、事務員を配置している場合は49件とされました。また、予防ケアプランのカウントが二分の一から三分の一となったことは賛否両論が渦巻きます。間違いなく言えることは、この改定項目は大規模な居宅介護支援事業所に非常に有利であると言うことです。ICT化が促進し、事務員が配置され、ケアプランデータ連係システムが導入されていれば、業務の効率化が促進されているために担当件数の拡大は容易です。もちろん、ケアマネジャー個々人のスキルや担当の難易度などに左右されますが、全体的に担当件数の底上げは容易です。業務改善を進めた上で、ケアマネジャー1人あたりの売上を80万円近くまで拡大する事が可能なのです。ケアマネジャーが10人体制では年商1億円も視野に入って来ました。逆に、小規模な居宅介護支援事業所には、担当件数の増加は重荷となります。モニタリング訪問の特例でのTV電話等の活用も同様です。今回の改定で、小規模事業所と大規模事業所の収益性の格差は一層、拡大して行くでしょう。居宅介護支援への同一建物減算の適用の方向も逆風となります。

 

11月10日に介護事業経営実態調査結果が公表されました。居宅介護支援事業所の税引き前収支差率は、コロナ補助金と物価対策補助金を含まない場合で、4.9%、含む場合で、5.1%と非常に高い数字でした。この結果は、収支差率の高い介護サービスの報酬単位を引き下げて、収支差率の低い介護サービスの報酬単位を引き上げるという介護サービス間の収支の調整に活用されることに繋がります。資料のグラフは、過去における経営実態調査結果を、利用者数別に時系列にまとめたものです。見ての通り、利用者数が少ない小規模事業所ほど赤字です。そして、利用者数が多い規模が大きい事業所ほど収支差率が高くなります。このグラフに於いて、収支がプラスに転換する分岐点が、利用者数が100人である事が分かるでしょう。利用者数が100人と言うことは、ケアマネジャーは三人体制以上です。即ち、特定事業所加算の算定が可能となります。居宅介護支援事業所の報酬体系は特定事業所加算を算定しない限りは、収支がマイナスです。

 

居宅介護支援事業所の収支差率がプラスに転換した理由として、令和3年度介護報酬改定に於いて、基本報酬算定における逓減制が限定付きで緩和されて担当件数が39件から44件となったことです。しかし、その算定率は全体の1割弱という状況で決して高くはありません。更に、居宅介護支援事業所の請求事業所数は年々減少しています。その反面、特定事業所加算の算定事業所数が、逆に増加しています。請求事業所数の減少については、居宅介護支援事業所の平均年齢が高いことから、引退による廃業も要因のひとつです。同時に、特定事業所加算を算定するために、小規模事業所が統合されてケアマネジャーが3人以上の事業所に再編成が進んでいることも大きな一因でしょう。特定事業所加算Ⅲを算定するだけでも基本報酬が1.3倍に増額されます。これも収支差率アップの大きな要因となっていると考えられます。居宅介護支援事業所は、自然の流れの中で、大規模化が進んでいることになります。

 

小濱介護経営事務所作成

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。