令和6年度介護報酬改定の答申の要点(2)

1,訪問介護サービスが厳しい評価に
訪問介護は、30分以上、1時間未満の身体介護で見た場合、基本報酬が-2.3%のマイナス改定となっています。単位にして6単位のマイナスです。訪問看護も0.24%のプラスですが、単位としては、1単位の増加に過ぎません。
ホームヘルパー不足が表面化して、経営的に厳しさを増している訪問介護での大きなマイナスとなったことは介護業界を震撼させました。厚生労働省の見解では、報酬単位の決定に於ける基準は処遇改善にあって、訪問介護や定期巡回サービスは介護職員中心であるため、処遇改善加算は全額が介護職員に渡ります。他のサービスは、その他の職種の賃上げも必要なため、多めの配分としたと言います。訪問介護では、同一建物減算が強化されました。訪問介護は、新たに12%減算の区分が創設されます。これに該当する場合は、更なる収入のマイナスとなります。いずれにしても、今回で答申された介護報酬で今後3年間の事業運営を進めなければなりません。他の介護サービスであれば、加算を算定する事でマイナス分をリカバリーすることが考えられます。しかし、訪問介護は、加算の種類が最も少ないサービスです。その対策も限られるのです。そのような中で最も算定すべき加算は、特定事業所加算となります。加算率は請求金額の3%〜20%の5区分です。もちろん、算定要件のハードルは高く容易に算定は出来ないのですが、報酬マイナスをリカバリーする手法として優先すべき項目として検討すべきです。そして新たに創設された口腔連携強化加算も算定すべきです。
2,最大のマイナスとなった定期巡回サービス
定期巡回サービスに至っては、-4.4%と最大規模のマイナスとなりました。これは、昨年11月10日に公開された介護事業経営実態調査結果で、訪問系のサービスが軒並み高い収支差率を示していたことが要因の一つです。全サービス平均が2.4%である所、定期巡回サービスは11%、訪問介護は7.8%と非常に高い数値でした。定期巡回サービスでは、総合マネジメント体制強化加算で、新たに設けられた上位区分の算定は必須です。上位区分の算定要件を満たせば、月に1200単位を算定出来ます。しかし、現状維持で算定した場合は、200単位減額されて800単位となります。
3,居宅介護支援事業所は増収増益に
居宅介護支援の基本報酬は、0.9%弱のプラス改定となりました。さらに、特定事業所加算も一律14単位のアップです。11月に公表された介護事業経営実態調査において、居宅介護支援も4.9%と決して低くは無い収支差率を示していたことから、全体の改定率である0.61%を超えたことは評価出来ます。その分岐点となったのは、賃金アップの考え方でしょう。居宅介護支援には処遇改善加算は存在しません。そのために基本報酬を引き上げて、処遇改善に充てる方向でのプラスと言えます。さらには、逓減制が緩和されて担当件数が44件となったことも、収入の増加分をケアマネジャーの処遇改善の原資とする意図がある事は間違いないでしょう。もちろん、賃上げは義務ではありません。しかし、昨今のケアマネジャー不足を勘案すると、経営努力を含めた処遇改善は急務でありますし、大きな経営課題であることは疑いようがありません。
加算関連に目を移すと、ターミナルケアマネジメント加算の対象疾患に制限が無くなったことに注目しています。これまでは末期ガンのみが対象であった算定要件の制限が無くなり、算定対象が大きく拡大しました。同時に特定事業所医療連携加算の算定要件において、ターミナルケアマネジメント加算の算定回数が、これまでの5回以上から、一気に15回以上にハードルが上がりました。いくら対象疾患が緩和されたとは言え、年間の算定回数15回は非常に厳しいと言えます。確実に小規模事業者は算定が困難となりました。また、ターミナルケアマネジメント加算の算定要件である、死亡日の居宅訪問も現実的には厳しい算定要件です。看取り期に入った利用者のケアプランの見直しは、殆ど必要ありません。静かに旅立ちを見守るだけです。そのため、居宅訪問の理由が無く、死亡日に訪問する理由も示しにくいといえます。そもそも、死亡日は家族も多忙で、ケアマネジャーの訪問は歓迎されないでしょう。よって、年に15回の加算算定は、ケアマネジャーの在籍人数が多い大規模事業所でない限りは難しいと言えるのです。とは言え、ターミナルケアマネジメント加算は400単位、特定事業所医療連携加算は月125単位です。可能な限り、システム的に死亡日の訪問を出来る体制を構築して算定を目指すべきです。

小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。