厳冬下の介護施設経営

令和6年度介護報酬の基本報酬においては、特別養護老人ホームでは、総じて2.8%程度のプラスとなっています。しかし、介護老人保健施設では、報酬区分によって明暗が大きく分かれました。要介護3の区分で見たときに、在宅強化型が4.2%のプラスであるのに対して、その他型が0.86%、基本型が0.85%と大きく差が開いたのです。加算型は、在宅復帰・在宅療養支援機能加算が51単位と増額されて特養並みの改定率となっています。上位区分の強化型は4.2%、超強化型は4.5%と大幅なプラスとなりました。11月10日に出された介護事業経営実態調査結果においては、特別養護老人ホームは、-1.0%、介護老人保健施設が-1.1%であったことを考えると1%に届かない改定率は非常に厳しいと言えます。特に、その他型は令和7年度から多床室料が自己負担となり、利用者負担が月額で8,000円程度増額となります。入所者が安価な特別養護老人ホームに移動が進むなどで稼働率の低下が懸念されるとともに、長期滞在モデルの終焉が近づきました。
いずれにしても、昨今の物価高を勘案すると、その他型と基本型は実質的にはマイナスです。2024年8月から介護施設の居住費の基準費用額を1日当たり60円引き上げられますが、焼け石に水です。それ以上に、介護施設の食費の引き上げが見送られたのが厳しいといえます。食材費の高騰を自己努力で克服するには物価が上がりすぎています。そのため、厨房での炊事を断念して、冷凍食品や真空パックの食事に切り替える動きも加速しているようです。厨房を維持する為の人件費負担が重荷であることと、昨今の人材不足の影響も大きいのです。
その他型、基本型は、長期滞在型の老健で、病院と居宅の中間施設という役割を果たしていないという評価がありました。これまでも、基本型とその他型を算定する施設に対して、少なくても加算型まで引き上げることの必要性を事ある毎に説いてきました。加算型以上の区分に直ぐには転換出来ないとしても、中長期ビジョンの中で、加算型を経て、強化型、超強化型への転換を早急に検討すべきです。しかし実際は、その道も更に険しくなっています。介護老人保健施設の基本報酬ランクを決める在宅復帰・在宅療養支援等指標のハードルが上げられたのです。入所前後訪問指導割合、退所前後訪問指導割合の指標が最大35%以上に引き上げられ、15%以下では0点です。支援相談員に社会福祉士の配置が無い場合は、点数が2点減点されます。現在、ギリギリの点数で強化型、超強化型を算定している施設であっても、状況によってはランクダウンが想定されます。要は、介護老人保健施設は現状で満足せずに、更なるレベルアップが求められたと言うことです。
今回の介護報酬改定を見るときに、介護施設だけを見ては行けません。法人全体で収支がどうなっているかが重要です。例えば、介護老人保健施設に併設されることの多いデイケアでは、通常型は0.7%のプラスですが、現行の大規模Ⅰはマイナス2.8%となっています。デイケアでは、大規模ⅠとⅡが統合されて、大規模型に統合された影響です。これまで大規模Ⅰを算定してきた事業所は、この大きなマイナス分のリカバリを考える必要があります。その対策として、大規模型であっても、リハビリテーションマネジメント加算を全体の80%以上算定し、リハ職を10:1の割合で配置した場合には通常型同等の介護報酬を算定出来るという特定が設けられました。これを活用する事で、大規模Ⅰ相当の事業所でも、プラスに転換することが可能です。しかし、リハ職の10:1配置で、人件費が増加する場合は、収支を検討する必要があります。いずれにしても、今後は介護報酬に依存しない経営改善を進めていかなければならないといえます。
第239回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料

小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。