令和6年度介護報酬改定の検証

【第3回】介護老人保健施設と特別養護老人ホーム
1,介護老人保健施設
介護老人保健施設では、報酬区分によって明暗が大きく分かれました。在宅強化型が4%のプラスであるのに対して、その他型が0.8%、基本型が1%と大きく差が開いたのです。中間の区分である加算型は、特養並みの改定率となりました。介護事業経営実態調査結果では、介護老人保健施設が-1.1%であったことを考えると、1%に届かない改定率は非常に厳しいと言えます。特に、その他型は、多床室料が月額で8,000円程度の負担増となりダブルパンチです。その他型、基本型は、長期滞在型の老健で、病院と居宅の中間施設という役割を果たしていないという評価がありました。今回の結果を踏まえて、長期滞在型老健の経営モデルは破綻したと考えるべきでしょう。直ぐには転換出来ないとしても、短期〜中期ビジョンの中で、まずは加算型への転換を早急に検討すべきです。
また、介護老人保健施設の基本報酬ランクを決める評価指標のハードルが上げられました。入所前後訪問指導割合、退所前後訪問指導割合の指標が引き上げられて、支援相談員に社会福祉士の配置が無い場合は、点数が減額されました。これによって、さらに上位区分の基本報酬算定が難しくなりました。入所前後訪問指導割合、退所前後訪問指導割合の指標が最大35%以上に引き上げられて、15%以下では0点です。支援相談員に社会福祉士の配置が無い場合は、点数が2点減点されます。現在、ギリギリの点数で強化型、超強化型を算定している施設であっても、状況によってはランクダウンが想定されます。要は、介護老人保健施設は現状で満足せずに、さらにレベルアップが求められたと言うことです。基本型が加算型に移行するハードルも上がり、その影響が懸念されます。
加算に目を移すと、認知症短期集中リハビリテーション実施加算では、入所者の居宅を訪問し生活環境を把握する要件が追加されました。出来ない場合は、加算単位が半分に減額されます。短期集中リハビリテーション実施加算では、入所時及び月1回以上 ADL 等の評価を行うことなどを要件とする上位区分が設けられました。また、ターミナルケア加算では、死亡日の前日及び前々日並びに死亡日を高く評価する変更が行われました。要は、老健も最後まで施設で看取り対応を求めるという事です。
また、全ての入所者について見守りセンサーを導入して夜勤職員全員がインカム等の ICT を使用している場合には、夜勤職員配置を2人以上から 1.6 人以上に緩和する措置が取られました。これは、前回の改定で特別養護老人ホームに適用された措置です
2,特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームの基本報酬は、総じて2.8%程度のプラスとなっています。特別養護老人ホーム単独で見た場合には、大きな変更点はありません。社会問題化しつつある透析患者が施設に入所出来ない問題の解決として、施設職員による透析患者の病院への送迎を評価する特別通院送迎加算が創設されました。これは、月に12回以上の透析患者の送迎が要件となりますが、往復で一回のカウントですので注意が必要です。
3,居住費の引き上げ
介護施設全体では、2024年8月から介護施設の居住費の基準費用額を1日当たり60円引き上げられますが、焼け石に水であるといえます。それ以上に、介護施設の食費の引き上げが見送られたのが厳しいのでは無いでしょうか。食材費の高騰を自己努力で克服するには、物価が上がりすぎています。そのため、厨房での炊事を断念して、冷凍食品や真空パックの食事に切り替える動きも加速しています。厨房を維持する為の人件費負担が重荷であることと、昨今の人材不足の影響も大きいのです。介護施設経営は、大きな転換期になっています。
出典:第239回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料

小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。