令和6年度介護報酬改定の検証

2024.05.29

【第4回】介護施設での感染対策と生産性向上 

1,新興感染症対策 

介護施設系では特に、新興感染症対策が多く盛り込まれました。新興感染症とは、コロナに続く新たなウィルスのパンデミックの発生です。コロナ禍の教訓を踏まえて、次に出現が想定される未知のウィルスへの準備を進めていくことが重要とされました。また、入所者の体調急変に備えて、緊急時対応の準備や、24時間体制で相談、診察、入院の出来る医療機関との協力体制の義務化などが強化されています。特別養護老人ホームの配置医師緊急時対応加算では、夜間、深夜、早朝に加えて、日中であっても、配置医師が通常の勤務時間外に駆けつけ対応を行った場合の区分も創設されています。 

 問題は、連携する協力医療機関との契約です。新たな高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)は、第二種協定指定医療機関との連携が要件となります。この該当する病院が全国的に限られていて、かなりの狭き門なのです。該当病院との連携は、令和6年10月以降は算定要件では必須となりますので、早期の準備が必要です。 

 

2,生産性向上への取り組みの強化 

注目すべきは、生産性向上への取り組みが広範囲に盛り込まれたことでしょう。短期入所系、居住系、多機能系、施設系のサービスには、3年間の経過措置を設けた上で、生産性向上委員会の設置が義務化されました。同時に、ICT化に取り組み、その改善効果に関するデータを提出することを評価する生産性向上推進体制加算が創設されていますこの加算はアウトカム評価の加算で、1年程度は、10単位の区分Ⅰを算定して、業務改善の結果が出ていると評価された場合には、区分Ⅱに移行出来ます。区分Ⅱでは、入所者全員に見守りセンサーを導入し、出勤して配置すべき介護職員全員分のインカムを配置し、介護記録シフトを導入していることが算定要件となっています。 

 新たに創設される介護職員等処遇改善加算の算定要件である職場環境等要件では、生産性向上のための業務改善の取組を重点的に実施すべき内容に改められましたそれは、業務改善委員会の設置、職場の課題分析、5S活動、業務マニュアルの作成、介護記録ソフト、見守りセンサーやインカムの導入、介護助手の活用などです。基本的に、厚生労働省から提供されている、介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン、介護分野における生産性向上の取組を支援・促進する手引き、介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き、などを参考に進めて行くことになります。 

 

3,多床室料の自己負担化が現実となる

介護老人保健施設と介護医療院における多床室料の自己負担化が現実となりました。介護老人保健施設については、療養型とその他型が、介護医療院はⅡ型が、対象です。入所者は、月額で8000円程度の負担増となります。低所得者に配慮し、利用者負担第1~第3段階の者については、補足給付により利用者負担を増加させないとされましたが、確実に長期滞在型の介護老人保健施設の経営を直撃することになります。多床室料が全額自己負担となった時点で、特別養護老人ホームとの月々の利用者負担額の差が大きくなります。介護老人保健施設の長期滞在者の一部は、割安感の増した特養に移動するでしょう介護老人保健施設の介護報酬単価を見たときに、明らかに特別養護老人ホームより高いに関わらず、介護老人保健施設の長期滞在型が維持出来る理由は何でしょうか。それは、介護老人保健施設では、多床室に介護保険が適用されているため、特別養護老人ホームとの実質的な支払金額に格差が少ないからです。今、特別養護老人ホームの待機者が大きく減少し、空床も生じている現状から、その受入が可能です。今後、入所者の移動が起こることが想定されます特養化した長期滞在型の介護老人保健施設の経営モデルが破綻する可能性が高まっています。 

出典:第239回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料 

【参考資料1】令和6年度介護報酬改定における改定事項について[5.8MB]

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。