2024年中の行うべきこと(2)

2024.07.10

【第2回】令和6年度運営指導がスタートする

毎年6月は、新年度の運営指導が本格的にスタートする月です。役所関連は4月に人事異動があるためです。運営指導を担当する地方公務員の場合は異動の頻度は3~4年に1回が一般的です。これは、同じ部署を長期間担当することでの不正や汚職を防止する意味もあります。

実際に、2019年埼玉県内の某市において、7年間介護保険の要職にいた職員が生活保護受給者の現金詐欺事件を起こしました。しかし、地域によっては介護保険を所轄する部署の担当課長が3年程度で替わるたびに、ローカルルールが変わる問題も指摘されています。

令和6年度介護報酬改定は、過去最大規模の改定となりました。それは、変更項目が過去最大という意味でもあります。人員基準、運営基準はもとより、既存の加算の多くが、算定要件の変更がありました。今回の介護報酬改定審議では、複雑化する算定要件の簡素化も大きなテーマでした。

確かに、新たな介護職員等処遇改善加算における要件など、簡素化されたものもあります。しかし、全体的に見て簡素化されたという実感は薄いといえます。通所介護における入浴介助加算での入浴介助研修要件の追加など、負担が増えたと感じる改定項目も多いのではないでしょうか。

前回改定辺りから、既存の加算の算定要件が変更となることが増えています。それまでの介護報酬改定では、基本報酬の増減と新加算の創設が主な内容であったために、新加算を算定しない場合は、特に日常業務の内容を見直す必要が無かったのです。改定内容にアンテナを張ることも無く、単に従来通りの業務を繰り返すだけで足りた時代がありました。

今は、自らセミナーに参加するなどして、最新情報にアンテナを張らないとならない時代です。入浴介助研修を行わずに加算算定を続けた事業所は、運営指導において返還指導を受けます。

そうした中で、厚生労働省から各保険者に向けて、「介護保険施設等に対する監査マニュアル」が4月に発出されてました。監査実績が少ない自治体の職員も含めて活用出来るように、全国的に監査の内容を平準化し監査業務の迅速化に向けて留意すべき事項を加筆した内容となっています。

コロナ禍も明けて、昨年度より運営指導の実施件数が急増しています。それは、コロナ禍3年間の遅れを取り戻すかのような増加ぶりです。今年度はさらに実施件数が増加するでしょう。それと共に、監査対象案件も増えて、行政処分件数も増加が見込まれます。それを迅速かつ効率的に処理するためのマニュアルです。

そもそも、監査とは何でしょうか。まず、監査と運営指導の違いから見てみましょう。運営指導は、あくまで事業者の任意の協力によってのみ実現されるもので、強制力はありません。しかし、事業者側に運営基準違反や介護報酬の不正請求等が認められる場合は別です。監査の実施によって事実関係を明確にした上で指定取消等の行政処分が行われることになります。

ただし、行政指導に従わなかったことのみを理由として行政処分(不利益処分)を行うことはできません。運営指導では、情報を集めるための権限のみが認められていて、立入検査などの強制力はありません。しかし、監査の場合には立入検査などの強制力が認められています。介護報酬の請求指導に於いても、それが単なる手続上での誤りなどの場合は、過誤申請の手続による自主返還の形が取られます。それに対して、監査の結果で不正請求と判断された場合は、返還を徴収金として強制され、40%の過料が上乗せされることになります。

いずれにしても、コンプライアンスの再確認が急務です。さらには、早期に内部監査システムを構築し、運営指導を前提とした定期的なチェック体制を構築することが重要です。また、年に一回程度は、外部からのチェックが入る体制も作ることで万全となります。

資料出典:令和5年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料

総務課介護保険指導室[PDF形式:4.3MB]

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。