ICTの活用と人員基準の緩和、協働化・大規模化の意味
これまでの介護報酬改定においては、見守りセンサーなどの導入で介護施設の夜勤職員配置の緩和が進められてきました。次期改定においては、在宅サービスに緩和措置の拡大が期待されています。どのようなICT機器が対象となるかなどは、今後の審議待ちですが、在宅サービスにおいてもICT化による人員基準などの緩和措置が期待されています。
人員基準の緩和では、6月26日、外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会報告書(中間報告)が取りまとめられました。この中で、外国人介護人材の訪問系サービスの従事については、日本人同様に介護職員初任者研修を修了した有資格者等であることを前提にして従事を認めるべきである。とされました。その要件として、事業者に対して一定の事項について遵守を求めて、これらの事項を適切に履行できる体制・計画等を有することを条件とするとしています。その事項とは、
- 外国人介護人材への研修は、EPA 介護福祉士の訪問系サービスで求める留意事項と同様に行う。
- 一定期間、サービス提供責任者等が同行するなどにより必要な OJT を行う。
- 外国人介護人材のキャリアパスの構築に向けたキャリアアップ計画を作成する。
- ハラスメントを未然に防止するための対応策を設けると共に、利用者・家族等に対する周知等の必要な措置を講ずる。
- ICTの活用等も含めた環境整備を行う。
です。受入事業者に対して、上記①~⑤の事項を適切に履行できる体制・計画等を有することについて、事前に巡回訪問等実施機関に必要な書類の提出を求める。とされました。
また、技能実習生の受入についても、引き続き事業所の開設から3年が経過していることを要件とした上で、これを満たさない場合には、以下の①又は②のいずれかを満たす場合に 受入れを認めるべきとしています。
- ① 法人の設立から3年が経過している場合(法人要件)
- ② 以下のような同一法人によるサポート体制がある場合(サポート体制要件) :外国人に対する研修体制とその実施の確保、職員・利用者などからの相談体制、事業開始前に事業所従事予定の職員や事業利用予定の利用者・家族に対する説明会等。受入れに関して、法人内において協議できる体制。
です。今後、国において報告書の内容を十分に踏まえて、具体的な制度設計等を進めていくことになるでしょう。
そのような中で、2025度から介護職員等処遇改善加算の算定要件である職場環境等要件に、生産性向上への取り組みが大きく盛り込まれます。介護施設を中心に委員会の設置も義務化されました。ICT化や業務改善への取り組みは待ったなしであると言えます。
協働化は、2022年度から施行されている社会福祉連携推進法人の更なる普及が進められていきます。問題は、大規模化です。2024年度介護報酬改定において、通所リハビリテーションの基本報酬体系が簡素化されて、通常規模と大規模の2区分となりました。さらに、大規模型であっても、2つの要件を満たすことで、通常規模相当の基本報酬が算定出来るようになっています。これまでも国は大規模化の推進を掲げてきました。しかし、大規模化によって報酬単位が低下して、収益面でのメリットが無い事が足かせとなっていたのです。今回の改定では、大規模化が報酬面でも優位性が出てきたのでは無いでしょうか。次回改定においてこの方向性が拡大した場合には、一気に大規模化が加速するでしょう。同時に小規模型が報酬面で不利となる局面も想定されます。
介護事業の経営モデルでは、スケールメリット、規模の利益が重要となります。昨年11月10日に公表された、2023年度介護事業経営実態調査結果を見ると明確です。利用者数が少ない、すなわち小規模事業所ほど赤字であることが分かります。そして、利用者数が多い、事業所規模が大きい事業所ほど収支差率が高くなっています。これは、いずれの介護サービスにも言える傾向です。即ち、同じ事を同じようにやっていても、事業所規模が大きくなるほど、手元に残る利益が高くなる傾向があります。これをスケールメリット、規模の利益と呼びます。
出典:社会保障審議会 介護給付費分科会(第223回)資料
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS
介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。