生産性向上の導入の進め方 その2【第五回】ICT化は、職員が楽になった実感があって初めて成功

2024.12.25

電子媒体の5Sについて見ていきます。パソコンのディスクトップが、一面アイコンだらけという状態をよく見かけます。本人は分かりますが、他の人は、どこに何があるかが全く分からない。対策としては、仕掛かり中のアイコン以外は全部削除します。

次に、共有ファイルです。担当者が、自分で作ったデータや書類を、勝手に共有ファイルに保管している。サーバーの中は、いろいろなデータやファイルでバラバラの状態。どこに何があるかは全く分からない。これは、紙も電子データも同じです。不要なデータはこまめに廃棄。ペーパレス化の推進で、紙媒体を電子化して紙書類を消滅したとしても、職員が勝手なルールで電子ファイルして保管しても、紙同様に所在不明でどうしようもない。そのために、ファイル名、検索ワード、フォーマット形式などをルール化する必要があります。電子メールも、ただ残しておいたらサーバーがすぐにパンクします。保管の必要の無い場合はすぐに削除する。契約書も、早期に電子契約書に切り替えましょう。請求書関係も電子データをメールで送信する形に切り替えます。同時に、情報セキュリティの強化は必須です。テレワーク環境を整備して、在宅ワークも可能にしましょう。

このように、現場サイドでの日常業務の見直しから、生産性向上がスタートします。結果として、ICT化が有利と判断される業務では、ICT化を推進していきます。この時、ICT化は、上からの押し付けではダメです。現場で、何が問題かに正面から向き合う必要があります。その上で、アナログで残すものもあれば、ICT化もあるわけです。ただICT化しただけでは何も価値は生み出していません。業務改善では、現場目線がないと上手くいきません。一気に改革することは求めずに、しっかりとステップアップしていくことが、成功のポイントです。

問題点、課題を見つけ出して、その対処法を検討します。その中で、ICT化なのか、業務の簡素化なのかが分かれます。業務改善の方法は多岐にわたります。ICTもいろいろな選択肢があります。見守りセンサー、介護記録ソフト、インカムなどが一般的ですが、介護ロボットも多様化しています。しかし、如何に優秀なICT機器であっても、職員に選ばなければ無能長物です。介護記録ソフトが入っています、見守りセンサー入れました、インカムが入りました、と言っても、職員が使いこなせなかったら意味がありません。ICT化の活用は目的ではありません。あくまでも手段です。その手段の先にあるものは、ケアの質の向上であり、職員の生産性向上です。

例えば、コロナ禍の影響で、対面型の研修が減りました。ZOOM等を使ったオンライン型に変わってきました。そうすると、今までは夜勤者が眠い目をこすって、研修室に行って職員研修を受けて帰る。従来の集合型研修はそうでした。今はオンライン研修があります。研修内容をビデオに撮っておけば、夜勤者は一旦帰宅して休んでから、ビデオを見ることで研修を受けることができます。自分の好きな時間に研修を受けるように変わりました。これは、確実に職員の方が楽になった事例です。

ICT化の成果は、職員の方々が楽になった、仕事がしやすくなったという実感があって初めて成功と言えます。ICTは、職員の方に選ばれなければ無の長物です。逆に、職員の離職原因になります。ICT化自体が目的では無く、職員の方々を楽にするのが目的です。そのためには、現場でどんな課題があるのかを把握して分析して、そのための改善方法としてICT化、もしくは整理整頓を進めていく作業を行います。根強く、繰り返し実施して、検証して、見直すことで、バージョンアップしていく性格のものです。ここを理解頂けると、ICT化に身構えることはありません。要は、現場の無理、無駄、ムラをなくしていくということです。

小濱 道博氏

小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問

日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。