第1回 看護師が伝えたい「多職種連携の入り口」〜それは「違い」を知ることだった〜

2025.06.30

はじめに

ケアリポ読者の皆さま、初めまして。

私はこれまで23年間、北九州市内で、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、訪問介護、居宅支援事業所、デイサービス、グループホーム、ケアハウスなど、施設や在宅の現場で看護師として介護・医療・福祉に携わってきました。

「施設の看護師って、こんなに大変で責任が重い仕事なんだ」

これは、私が施設勤務を始めたばかりの頃、痛感したことです。病院のように医師がすぐそばにいるわけでもなく、検査機器が充実しているわけでもない。夜間にご利用者の容態が急変しても、「すぐに先生を呼ぶ」という選択肢はない。誰にも相談できず、ただ一人で判断と対応を迫られる――そんな日々の中で、「私に何ができる?何を優先すべき?」と自問自答を繰り返していました。

この連載では、「看護師にフォーカスを当てた介護現場での多職種連携」をテーマに、全12回のコラムをお届けします。現場でよく起こる「伝わらない」「分かり合えない」といったもどかしさに光を当て、看護・介護・リハビリ職など多職種の皆さんが、より良い連携を築くためのヒントになれば幸いです。

社会が変わった、医療職の役割も変わった

今、医療と介護の現場は大きな転換点にあります。少子高齢化が進み、医療の高度化とともにニーズは複雑化・多様化。治療の場は、病院完結型から地域完結型へと移行しています。

「地域で暮らすその人」を中心に、医療・介護・生活支援が一体となって支える。この「地域包括ケア」という考え方のなかで、看護師や医療職の役割も大きく変わってきました。

もはや「治療の補助を行う存在」ではなく、「生活の場に根を張り、命を守り、支え、見送る存在」として、私たち医療職は広がり続けています。しかし、看護教育の多くはまだまだ「病院を基盤」にしています。習っていないことはわからない。地域や施設という現場に出て初めて、「生活の中の看護とは何か」に私たちは直面するのです。

看護師が「つなぎ役」になることで見えてくるもの

私自身、当初は病院で「治療」を中心とした看護に取り組んでいました。

しかし施設での勤務を経験する中で、生活に寄り添いながら、予防・異常の早期発見・対応、そして看取りに至るまで、多面的な視点で関わることの重要性を実感しました。

看護師は、医療と生活の両方に目を向ける職種です。

医師の指示を現場に伝えたり、介護職の気づきを医療的に分析したりと、チームの「ハブ」となる存在でもあります。

たとえば、食事中にむせるようになったご利用者様について、介護職から「最近よくむせます」と報告がありました。

私は体力の低下による嚥下機能の変化を疑い、介護職と車いすの調整を行い、栄養士とも連携して食形態を見直すことで、誤嚥性肺炎のリスクを防ぐことができました。

このような連携の鍵は、「情報の受け止め方」「伝え方」「共有のタイミング」にあります。

どれだけ優れた専門性があっても、それが共有されなければ現場の支援にはつながりません。

介護現場の多職種連携とは?

まず連携の前提として、それぞれの職種の役割や視点を理解することが必要です。

以下は、介護現場でよく関わる職種とその主な役割です。

看護職
ご利用者様の健康状態や疾患リスクの観察・判断を行い、医療的な視点から他職種とつなぐ役割を担います。日々のケアの中で予防的視点、異常の早期発見・対応を行い、「変化」を医療的に読み取り、情報共有します。

介護職
ご利用者様の食事・排泄・入浴・移動などのケアを通じて、安心できる日常生活を支援します。もっとも身近な存在として、「ちょっとした変化」にも気づく力を持っています。

リハビリ職(PT・OT・ST)
身体機能や動作の維持・改善を専門とし、日常生活動作の自立を支援します。食事姿勢の調整や嚥下機能のアセスメント、福祉用具の選定なども含まれます。

ケアマネジャー(介護支援専門員)
介護サービス全体を統括し、ケアプランを作成・管理します。他職種と連携しながら、ご利用者・ご家族のニーズに応じた計画を調整していく役割です。

生活相談員
ご利用者や家族の相談窓口となり、生活全体の課題や地域との連携、制度調整などを行います。特に施設入所時の契約や対応をはじめ、関係者間の調整役となることもあります。

管理栄養士・栄養士
ご利用者様の栄養状態に基づき、食事内容や形態を調整し、必要に応じて補助食品を提案します。医師や看護師と連携し、嚥下機能や摂取量の確認なども担います。

このように、「共通の目的」に向かっていても、それぞれの職種の視点や優先順位は異なります。

その違いを理解し合わずに連携を行うと、「伝わらない」「ずれてしまう」ことが起こりやすくなります。

多職種連携の本質とは?

「多職種連携」とは、看護職、介護職、リハビリ職、ケアマネジャー、生活相談員、管理栄養士、医師、歯科医師、歯科衛生士などが、それぞれの専門性を活かしながら、「共通のゴール=ご利用者様の生活の質向上」を目指して支援を行う仕組みです。

とくに介護現場では、「生活」を支える介護職と、「医療的な変化」に目を向ける看護師とが、密に連携していく必要があります。

お互いの視点を理解し、言葉の背景にある「意味」や「判断基準」を共有することが、支援の質の向上、見逃しの防止、重度化の予防、そして穏やかな看取りへとつながっていくのです。

おわりに

多職種連携は、「一人の専門職では支えきれない現場」でこそ力を発揮します。

それぞれが異なる視点を持っていて当然。だからこそ、その違いを知り、「つなぐ力」を持った看護師がハブになることで、現場全体がやわらかく、前向きに動き出すと私は信じています。

次回は、多職種連携において「なぜすれ違いが起こるのか?」という現場のリアルな問題に迫っていきます。

次回更新は7月9日(水)

 
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眞鍋 哲子 ​ 氏

看護と介護の想いを繋ぐ会社(株)ONMUSUBI代表取締役
福岡県北九州市出身

看護師として外科、整形外科、内科、精神科などを経験し、その後高齢者施設の看護師として23年間勤務。
生活の中の看護を追求し、チームケアを大切に現場での実践に取り組む。
現在は、全国で施設看護師や介護職、福祉関係職に向けたコンサルテーション、セミナー、執筆活動等を精力的に行っている。