第1回 フォロワーを増やす前に考えたい、介護事業所のSNS活用の目的
はじめに
「採用のためにSNSを活用したいのですが、何を投稿すればよいのでしょうか」
「多くの人に事業所を知ってもらうには、やはりSNSが必要ですよね」
介護事業所の採用や組織づくりをご支援していると、近年よく話題に上がるものの一つに「SNS」があります。
SNSをうまく活用できれば、求職者に事業所の雰囲気を伝えたり、地域の方やご家族に日々の取り組みを知ってもらったり、職員自身が仕事の価値を見つめ直すきっかけにもなります。
一方で、「炎上が怖い」「個人情報の扱いが心配」「そもそも何を発信すればよいのかわからない」と感じている管理者や経営者の方も少なくありません。
SNSには可能性がある。けれど、何から始めればよいのか、どのように活用すればよいのか、どこに気をつければよいのかがわかりにくい。そこに、介護事業所におけるSNS活用の難しさがあります。
だからこそ最初に考えたいのは、SNSを何のために使うのか。そして、自分たちの事業所のどのような価値を、誰に届けたいのかです。
この連載では、介護事業所におけるSNS活用を、単なる投稿テクニックではなく、採用・広報・組織づくりにつながる取り組みとして考えていきます。
そもそもSNSとは何か
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とは、インターネット上で人と人、または人と組織がつながり、情報を発信したり、受け取ったり、共有したりできるサービスのことです。Instagram、Facebook、X、TikTokなど、種類はさまざまです。
総務省情報通信政策研究所の調査でも、調査全体ではInstagramは5割超、X(旧Twitter)は4割超の利用率があり、主要なSNSが多くの人に利用されていることが示されています。
SNSは、いまや一部の若い世代だけが使うものではなく、日常的に情報に触れる場所の一つになっています。
つまり、求職者だけでなく、利用者のご家族や地域の関係者にとっても、SNSは情報に触れる入口の一つになりうるということです。
ホームページやパンフレットは、理念、サービス内容、求人情報などを整理して伝えるうえで、今でも重要な媒体です。事業所の基本情報を正確に伝えたり、法人としての信頼感を示したりする役割があります。
一方でSNSには、日々の出来事や職員の工夫、利用者との関わり、地域とのつながりなどを、比較的リアルタイムに、気軽に届けられるという特徴があります。
ホームページやパンフレットで全体像を伝え、SNSで日々の雰囲気や考え方を少しずつ伝えていく。そう考えると、それぞれの役割の違いが見えやすくなります。どちらか一方が大切というより、それぞれの役割を活かして組み合わせることで、事業所の姿がより伝わりやすくなります。
実際に、介護事業所の採用広報や情報発信の場面でも、「SNSを見て事業所の雰囲気が伝わった」と見学につながったり、「働くイメージが深まった」と応募につながったりするケースがあります。
もちろんSNSは開設すればすぐに成果が出るものではありません。また、気軽に投稿できる一方で、個人情報や写真掲載、投稿内容の確認など、慎重に考えるべき点もあります。それでも、外部の人たちとの接点をつくる入口として、介護事業所にとってSNSは大切な手段となっています。
「フォロワー」や「バズ」は目的ではない
「これからはSNSが重要だ。だから、自分たちもアカウントを作って発信を始めよう!」
そう考えてSNSでの情報発信を始めたものの、なかなか反応が増えない。フォロワー(そのアカウントの投稿を継続的に受け取りたいと思って登録してくれている人)も思うように増えず、多くの人に短期間で広がるような「バズ」と言われる投稿もできない。最初は意欲的に投稿していたものの、だんだんと手応えを感じにくくなり、気づくと何か月も更新が止まっている。
そんな介護事業所のSNSアカウントも、少なくありません。
こうした更新停止は、担当者の意欲が足りないから起きるわけではありません。むしろ、「何のために発信するのか」が曖昧なまま始まり、投稿内容や判断基準が担当者任せになってしまうことで、続けにくくなることが多いのです。
もちろん、フォロワーが増えたり、投稿が多くの人に届いたりすること自体は悪いことではありません。しかし、数字だけを追いかけると、本来伝えるべき内容から離れてしまうことがあります。
介護事業所が本当に届けたい相手は、「とにかく多くの人」ではないはずです。「バズ」狙いの目立つ、見栄えのする投稿を考える前に、まずは自分たちにとっての目的を整理する必要があります。
では、その目的を考えるために、最初にどのような視点を持てばよいのでしょうか。次の3つの問いから整理してみると、考えやすくなります。
始める前に意識したい3つの問い
SNSを始める前、あるいは運用を見直すときには、まず考えておきたい問いがあります。
一つ目は、「誰に届けたいのか」です。
求職者なのか、利用者や家族なのか、地域の方なのか。届けたい相手を具体的に考えることが出発点になります。
二つ目は、「何を知ってもらいたいのか」です。
施設の設備や行事だけでなく、自法人の考え方や働き方、事業所の雰囲気、支援に対する思いなど、伝えられることはさまざまです。届けたい相手によって、伝える内容や言葉づかいは変わります。
三つ目は、「何のために続けるのか」です。
採用につなげたいのか、利用相談や見学につなげたいのか、地域の方に事業所を知ってもらいたいのか。目的があいまいなまま始めると、投稿内容がぶれたり、担当者だけの負担になったりしやすくなります。
最初から明確に言い切れなくても構いません。ただ、この3つを意識しておくだけでも、SNSを目的があいまいなまま始めるのではなく、自分たちの事業所にとって意味のある取り組みとして考えやすくなります。
最初の一歩は、職員と話すことから
「自分たちの事業所として、外部の人に知ってもらいたいことは何か?」
この問いを、まず職員と共有してみてください。
たとえば、朝礼やミーティングの中で、「最近、現場でうれしかった出来事は何だろう」「うちの事業所で、外の人にもっと知ってもらいたい日々の取り組みは何だろう」と話してみるだけでもよいと思います。
現場で日々行われていることの中に、外部の人に届けたい価値があるかもしれません。それを見つけるのは、管理者や担当者だけの作業ではなく、職員との対話の中から生まれてくるものでもあります。
介護事業所にとってのSNSは、バズを狙うためのものでも、フォロワー数を競うためのものではありません。自分たちの事業所で大切にしていることを、必要としている人に少しずつ届けていくための手段です。
この連載では今後、SNS活用で期待できる効果、発信内容の考え方、無理なく続けるための運用体制、炎上や個人情報への不安にどう備えるかなどを、順番に整理していきます。
まずは、自分たちの事業所には、誰に届けたいどのような価値があるのか。そこから始めてみてください。
【参考】
※出典:総務省情報通信政策研究所「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」
次回更新は7月15日(火)
野沢 悠介 氏
株式会社Blanket 取締役 ワークショップデザイナー、国家資格キャリアコンサルタント、 JCDA認定CDA(Career Development Adviser) 立教大学GLP(グローバル・リーダーシップ・プログラム)講師
立教大学コミュニティ福祉学部卒。介護・福祉領域の採用・育成・組織開発を専門とし、「求職者が働きたい・職員が働き続けたい組織づくり」をテーマに、全国の介護・福祉事業者の人材確保や離職防止に取り組む。採用戦略、人事制度設計、理念浸透、育成プログラム開発、研修・ワークショップの企画など、現場に寄り添った幅広い支援を行っている。