第1回 精神疾患ってなに?①
はじめに
ケアリポ読者の皆様、初めまして!埼玉県ケアマネジャー協会です。
当協会では、「みんながハッピー」を合言葉に、ケアマネジャーや関係団体の皆さまを対象とした専門的な研修の開催や講師派遣などを中心に活動しています。
このたび、精神疾患やその可能性のある方への対応について、全10回の連載コラムをお届けすることになりました。執筆は、当協会会長の杉田まどかと、地域支援部講師の三幣千尋が担当いたします。私たちは、20年以上にわたり、高齢・障害福祉分野のみならず、行政・司法の立場から、精神疾患を抱える方の支援に携わってきました。現場で働く皆さまが共感しやすいよう、具体的な事例を交えながら、実践的な対応方法をご紹介していきたいと考えています。
第1回と第2回では、三幣が「精神疾患ってなに?」というテーマについてお話しします。
精神疾患の方を苦手と感じる理由
皆さんは、精神疾患のある、あるいはその可能性のある利用者や家族の対応について、どのような時に困ったり、不安を感じたりするでしょうか?
例えば、
- 「1日に何度も電話が来る」
- 「必要なサービスを断られてしまった」
- 「介護保険では対応できない要求ばかりで困る」
- 「急に怒り出す」
といった経験があるかもしれません。忙しいケアマネ業務や介護現場においては、大きな負担となります。
その背景には、
- 「その人に何を言われるかわからない」
- 「こんなことを言ってしまって良いのだろうか」
といった不安感や恐怖心があるのではないでしょうか。このような感情が、「精神疾患のある方は苦手」という意識につながってしまうのかもしれません。
精神疾患って、どんな病気?
そもそも精神疾患とはどのような病気なのでしょうか?統合失調症、うつ病、発達障害、パーソナリティ障害など、さまざまな病気がありますが、基本的な理解として、精神疾患は「脳の働き」に何らかの支障が生じ、社会生活を送ることが困難になる病気です。
ここで重要なのは、「社会生活を送ることがうまくできなくなる」という点です。たとえ何らかの症状があったとしても、その人が属する社会やコミュニティーの中で支障なく生活できているのであれば、精神疾患があっても必ずしも障害があるとは言えません。それは「個性」として捉えたり、「病気と上手く付き合えている」と考えることができます。この点については、パーソナリティ障害や発達障害をテーマにした回で詳しく解説します。
基本的な脳の働き
私たちの脳には、以下のような働きがあります。
精神疾患のある方は、これらの機能のどこかに支障をきたしていると考えられます。
例えば、統合失調症の方が「街中で見知らぬ人から咳払いをされた。これは自分への警告だ」という妄想を話したとします。この場合、
2.判断:それを「自分への警告だ」と解釈した
と考えられます。一般的には、街中で咳払いをする人がいても、それを「自分への警告だ」とは感じません。このように、一般的な感覚とはかけ離れた捉え方をしてしまうため、本人は生きづらさを感じ、周囲は奇妙に感じ、不安を抱く要因となります。
精神疾患の主な症状〜精神科受診の判断は?〜
脳の働きの支障によって、様々な症状が現れると説明しましたが、実際にはどのような症状があるのでしょうか。
「不可解な原動力」とは、何日も眠らずに活動してしまうこと、「強迫観念」とは、何度も家に戻って戸締まりを確認してしまうことなどが例として挙げられます。
筆者の精神疾患に関するセミナーで、よく質問されるのが「精神科への受診を勧めるタイミング」です。
症状を個別に見てみると、「眠れない」や「落ち込み」は誰にでも起こりうる症状です。精神科受診が必要となるのは、図の右側に示されているような症状が見られる場合です。
また、受診の際には、いつから、どのような症状で困っているのかを医師に具体的に伝えることで、スムーズな診察につながります。例えば、「眠れない」という症状で受診する場合でも、症状が出始めた時期やきっかけだけでなく、「寝つきにくい」「途中で目が覚めてしまう」「朝早く目覚めてしまう」「眠りが浅い、夢を多くみる」など、詳細な睡眠状況を医師に伝えることが大切です。
次回
今回は、精神疾患の基礎知識についてお話ししました。
次回も引き続き、「なぜ精神疾患のある方との関わりにくさを感じてしまうのか」という点について掘り下げ、具体的な事例を基に、支援のコツをお伝えしたいと思います。
<参考文献>
・春日武彦(2020)『援助者必携 初めての精神科第3版』 医学書院
・平成27年度障害者総合福祉推進事業「精神障害の特性に応じたサービス提供ができる従事者を要請するための研修プログラム及びテキストの開発について」
次回更新は5月9日(金)
三幣 千尋 氏
精神保健福祉士、介護支援専門員、相談支援専門員、東京都福祉サービス第三者評価 評価者
埼玉県内の精神科医療機関において、精神保健福祉士、ケアマネジャーとして勤務後、足立福祉事務所で介護扶助適正化を経て、現在は、司法福祉分野での精神保健福祉士としての活動を中心に、都内で居宅支援事業所のケアマネジャーとしても勤務している。
また2018年10月より一般社団法人 埼玉県ケアマネジャー協会の地域支援部の講師として全国で、ケアマネジャー、行政職員、一般企業向けに精神疾患やメンタルヘルス関連の講師を行う。