「新型コロナ感染症分類の見直しの見通しと介護現場への影響」

新型コロナウイルス感染症によるコロナ禍はいよいよ丸3年が経過しようとしています。社会の在り様が一変した未曾有のパンデミックであり、介護業界への影響も大変深刻なものであります。しかしながら、ワクチンと治療薬の開発の成果も少しずつ出始めており、日本における新型コロナによる致死率はインフルエンザを下回る状況ともなり、収束に向けた出口戦略が進められつつあります。「緊急事態宣言」や「まん延防止措置」等の過度な行動制限が取られることはなくなりつつあり、水際対策も全面開放されており、海外との人の往来もコロナ前の状況に戻りつつあります。そこに加えて、政府は新型コロナウイルス感染症の感染症分類を現在の“2類相当”からインフルエンザ等と同等の“5類相当”への引き下げ議論をこれから検討していく可能性を加藤厚生労働大臣が発言しています。
致死率等のデータから感染症分類の引き下げ議論が検討されることは自然なことであると思いますが、他方で介護現場における引き下げによる影響への考慮が求められることは間違いありません。言うまでもなく新型コロナは高齢者及び基礎疾患のある方にとってはより危険なウイルスであり、ワクチンや治療薬が開発されていても、その脅威は引き続きの状況であります。更には、今後の変異株の可能性への備えや、未だ解明されていない後遺症への対応など、インフルエンザと同等であると位置づけるには今少しエビデンスが必要であると思います。
また、感染症分類を“5類相当”へと引き下げた場合に、インフルエンザ等と同等の対応となるとすれば、ワクチンの接種や、感染した際の診療報酬や入院費に自費が発生することとなります。更には、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金で介護現場に支給されている「かかり増し経費補助金」をはじめとする新型コロナ対策が全て無くなることとなります。万一、そのような状況となれば介護現場には甚大な影響が生じることが予測されます。
そもそも第7波は、地方の介護現場から「これまでの3年弱のコロナ禍で最も厳しい状況にあった。」との声が数多くあがっています。致死率はインフルエンザより低くなったとは言っても、そもそもの感染者数が圧倒的なため、亡くなってしまう方の人数は大きなものとなります。また、地方においては、感染拡大の本格化は第7波が初めてであり、これまでの累計感染者数が少ないことから、ワクチン接種以外で抗体を保有している人の数は限定的であり、ワクチンによる抗体保有期間にも限りがあることから、これからの第8波の本格感染が拡大すると、更なる大きな影響も想定されます。加えて、これからの年末年始はインフルエンザとの同時流行が想定されていることからも介護現場への影響の大きさは計り知れません。
もちろん、政府はこのような状況への配慮をしているからこそ、現時点で“5類相当”への引き下げを進める方針をはっきりとは示していません。また仮に引き下げを進める場合においても、医療や介護・福祉現場に対する新型コロナ対策については、原則、継続するなどの対応策を検討してもらうことが重要であると思います。
いずれにせよ、介護現場ではこれからの年末年始に向けて、インフルエンザとの同時流行に備えた感染拡大防止策を徹底し続けるとともに、今後の政府による収束に向けた議論のゆくえを注視していかなければなりません。

斉藤 正行氏
・ 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
・ 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任