介護事業の経営実態調査を正確なものとするために

2023.02.17

令和5年2月1日、令和4年度介護事業経営概況調査の結果が公表されました。介護事業の全サービスの収支差率(介護事業の収入と支出の差額の収入に占める割合。利益率。)は3.0%と前年調査対比で0.9%の悪化となりました。これは、介護人材不足の影響による人件費等の増加と、コロナ禍による影響が主たる要因と推察されます。そして、この数字は物価高騰による影響は加味されておらず、現状の介護事業者の収益環境は更に厳しいものであることが想定されます。

次期(2024年)介護報酬改定の改定率の決定に最も大きな参考となるデータとなるのは、令和5年度介護事業経営実態調査です。令和5年5月に実施され10月に公表される予定です。令和4年4月~令和5年3月までの介護事業の経営調査です。物価高騰の影響も加味された更に厳しい数字が示されると予測されています。

この経営実態調査及び、経営概況調査で示される介護サービスの収支差率ですが、大きな傾向をつかむ上では非常に重要なデータとなりますが、数字の正確性は現場の実感値とは異なるとの指摘も少なくありません。私自身も数字の正確性には疑問を感じています。何が原因で正確性を欠いているのかと推察すると、1つは、前回、令和2年度調査の有効回答率は45.2%であり、半分以上の事業所は調査に回答をしていないことになります。この調査票はそれなりにボリュームのある調査であり、回答には現場に一定の負担を強いることとなります。そうすると、自ずと事業運営において余裕の無い事業所は回答を控える傾向にあると思います。事業運営に余裕の無い事業所はイコール採算の取れていない事業所であるとも言えると思います。従って、有効回答率が50%を下回っている現状であれば、比較的余裕のある事業所が中心に回答していることが推測されることから、実態の収支差率は更に低い可能性があります。更にもう1つの課題は、収支差率における支出について、本部経費についても事業所案分して計上することが可能ですが、計上されていない調査も多いと推察されます。中堅や大手の介護事業者では本社等において、総務、労務、経理、人事や採用、研修、広報、営業支援業務や、更には請求業務を本社一括で行っている法人も少なくありません。これら業務は当然、介護事業において必要な業務であり、規模の小さな法人であれば、代表者が管理者を兼務しながら行っている業務でもあります。従って本来はその業務に係る本部経費は事業数数や事業数の売上ごとに案分して計上すべきものです。しかしながら、これらの本部経費が、経営実態調査及び経営概況調査においては反映されていないケースが散見されています。なぜなら調査実施における調査票は本社ではなく、各事業所に配布されることになっています。事業所の管理者の判断に委ねられており、本社にお伺いを立てながら回答する事業所もあれば、管理者が知りうる範囲の収支結果を記載して提出してしまうケースもあり、その場合には本部経費が計上されない可能性が高くなります。この2点の理由から、収支差率が現場の実感値と異なっているのではないかと推察しています。次回の経営実態調査は前述のとおり5月に予定されています。調査対象事業所は無作為に抽出されることから、全ての事業所に届くわけではありませんが、自事業所に調査票が届いた際には、必ず本社に問い合わせて本部経費を計上した上で、必ず提出して欲しいと思います。繰り返しとなりますが、この調査結果が、次期報酬改定における改定率の決定に極めて大きな影響を及ぼすこととなります。介護業界全体がしっかりと注目していくことが大切であると思います。

 

斉藤 正行氏

・ 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
・ 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任