デイサービスの約半数が赤字。デイサービスの展望と事業者の取り組むべき対策

2023.03.03

デイサービスの経営環境が大変厳しい状況となっていることが、各種のデータで示されています。その要因分析と、次期報酬改定を見越したデイサービスの展望、事業者が取組むべきことを論考したいと思います。

令和5年2月1日に公表された経営概況調査によると、通所介護の昨年度収支差率(利益率)は1.0%。前年度から2.8%と低下しています。全サービス平均3.0%(前年対比-0.9%)と比較すると、収支が顕著に悪化していることが分かります。

更には、福祉医療機構(WAM)が公表した調査レポートでも昨年度、通所介護の46.5%が赤字であると報告されました。

これらのデータは、事業所が物価高騰の影響を本格的に受ける前の状況を表しており、物価高騰の影響が加味される今後の調査では、更なる収支悪化が予測されます。

このようにデイサービスの足元の収益環境が厳しくなっている要因は、収入面では、コロナ禍において利用者の利用控えによる利用率の低下が主たる要因の1つだと思います。支出面では、人手不足による人件費の高騰、採用費や労務管理費などの増加に加えて、新型コロナ感染拡大対策のための経費の増加、そして物価高騰による電気代、水道光熱費、ガソリン代、食材費やその他全般の経費が増加していることが要因だと思います。

これに加えて、WAMが公表した調査レポートでは、デイサービス事業所が飽和状態にあるのかもしれないと指摘されています。そのことによる利用者の獲得競争の激化から、多くの事業所で利用率が低下しているとの見立てです。しかしながら、私は飽和状態という表現には違和感を覚えます。当然ながら、地域ごとに状況は大きく異なっているため、なかには飽和状態と呼ぶべきところもあるでしょう。ただし、全国で総じて飽和状態にあり、今後デイサービスを増やしていく必要がないとは全く思いません。大前提として、2025年以降急速も後期高齢者が増加し、約20年間、要介護高齢者は増加し続けることになりますので、デイサービス事業所も増やし続ける必要があることは自明です。また、確かに地域によっては飽和状態とも言うべき競争の激化している環境もあると思いますが、それでも私は他の産業における競争状態と比べれば、デイサービスの競争環境はまだまだ緩やかであると感じています。

介護保険制度がスタートした20年前や10年前と比べれば競争が激しくなったことは確かです。そのような中で、当時と状況が決定的に異なることが1つあります。それは、今後もデイサービス事業所数は増やし続ける必要はあるものの、これまで以上に勝ち組と負け組が明確化されることとなり、プレイヤーとなる運営法人の数は統廃合されていくということです。

そこで勝ち組となるために必要なことは何か。事業者が危機感を持って認識しなければならないことがあると思います。それは、次期2024年介護報酬改定において中核となる考え方「科学的介護の推進」「自立支援・重度化防止の推進」「DX推進・生産性の向上」などの対応に本腰を入れて現場で実践していくことです。

例えば「科学的介護の推進」であれば、LIFEへの取組みが欠かせません。現在、科学的介護推進体制加算は月40単位であり、膨大な手間を考えると必ずしも採算の合うものではなく、とりあえずデータ入力して加算算定しているだけの事業所も多いと思います。しかしながら、次期改定では間違いなく点数も拡充され、関連加算も大幅に増加していくことが予測されます。更には、前回改定における入浴介助加算のような考え方が多く取入れられていく可能性もあります。従来通りの対応を続ければ単位数は削減され、逆に、自立支援・重度化防止にしっかり取組み、その成果をあげることがより高く評価されていく。そうした形に多くの加算が移行していくことも予測されます。

こうした新しい概念に対して、加算算定のための表面的な対応しか行っていない事業者は、やがて対応しきれなくなり、大きく収入が減少する可能性が出てきます。本質的なケアの提供体制を変化させていく事業所のみが存続・発展し続けることの出来る時代へとこれから大きく転換されていくことになるのではないかと思います。

 

斉藤 正行氏

・ 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
・ 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任