介護業界における人材紹介会社(有料職業紹介事業者)の手数料問題について

2023.03.10

介護業界における有料職業紹介事業者いわゆる人材紹介会社の手数料問題はこの数年1つの課題として議論されています。令和5年2月27日に開催された介護保険部会においても委員よりこの問題指摘が行われました。先般公表された介護事業経営概況調査による介護事業者の利益率は昨年対比で0.9%低下しましたが、その主要因は、人件費や採用費の増加であり、紹介会社への手数料負担も要因の1つにあると見られています。

人材紹介会社による手数料問題とは、紹介会社より職員の紹介を受けて採用した場合に手数料を支払いますが、その手数料が割高であるのではないか。また、人手不足の介護業界においては、それでも止む無く利用せざるをえず、年々手数料の金額が増え続けており、介護事業者の収入の大変は介護報酬という公的なお金であり、その公金が手数料として流出していることになっており問題ではないか。また高額な紹介料を払って入社した職員がすぐに退職してしまうことや、その際の返還ルールなどに統一性がなく、ほとんど返還されないケースもあり問題視されています。より悪質な紹介会社の場合には、求職者と結託し故意に退職を繰返しているケースも僅かながら存在していると指摘されています。

このような問題について、介護現場の多くでは広く認識されているものの、実態に関する調査データは極めて限定的にしか行われておらず、正しい状況認識が出来ていません。介護保険部会においてもまずは、実態把握のための調査を定期的に行うことの必要性が指摘されています。もちろん厚生労働省においても対策を講じていないわけではなく、調査についても過去には行われており、数年前よりいくつかの対策も講じられ始めました。

具体的には、令和3年4月に職業安定法の一部改正が行われ有料職業紹介事業者に対して、①紹介手数料に関して返金制度を設けること。②自らの紹介により就職した者に対して、就職した日から2年間の転職勧奨を行ってはならないこと。③就職した際に求職者に対してお祝い金等の支払いを行わないこと。などが定められました。更には、令和4年10月の法改正において、求人情報や手数料、返金に関する様々な必要情報を、求職者と募集会社双方に最新の情報を正しく説明することが義務付けられました。同時に、ネット等での求人メディアに対しても一定の規制が求められることとなりました。そして、これら定めた新しいルールをしっかりと順守している紹介会社に対して認定を行う『職業紹介優良事業者認定制度』も創設され、認定事業者は専用ホームページ上にて公開されています。

介護事業者が人材紹介会社を活用する際には、上記の認定事業者より紹介を受ければ悪質な事業者と取引することは無くなり、大きなトラブルとなる可能性は低くなると思います。しかしながら、私は、これらの厚生労働省の講じている対策だけでは全く不十分であると感じています。返金の制度化や、お祝い金の禁止などが設けられましたが、違反者に対する罰則ルールが定められているわけではなく、順守状況の監視体制も不十分な状況にあるため、結果として現時点においても多くの紹介会社がルールを順守していない状況にあります。また、仮にルールを順守している認定事業者のみとの付き合いだけにすれば良いのか?ということですが、それだけで事足りて人材確保が出来るならば良いですが、現状の厳しい人手不足の状況では、紹介会社の求人確保も苦労しており、認定事業者といってもエリアや各種条件全ての人材を供給することは不可能な状況であります。結局は、その他の紹介会社とも取引をせざるを得ない状況にあります。

加えて、私が最大の課題だと感じていることは、介護業界における紹介会社の不適切なマッチングに対する手数料の割高感についてです。例えば、質の良くない紹介会社では、求職者のキャリア面談等も行わずに求職情報のみを収集し、募集事業者からも人事部の求める人物像を把握することなく、ただただ求人票を幅広く発信し、興味のある会社に繋いで、制約した場合に手数料を請求するだけの対応をしているケースも散見されます。そのような対応の場合でも手数料は他の産業と同様に年収の30~40%が請求されます。私は、このような紹介プロセスの質の確保に対する対策を講じることが重要であると思います。適切なマッチングを行い仮に高い手数料がかかったとしても早期退職することなく長期間勤務してもらえれば採算はとれます。

とはいえ、人材紹介会社の自由な競争環境を阻害することは好ましくないため、過度な対策を講じることも難しい状況があり、しっかり現場が望むピンポイントかつ成果の高い対策が求められていると思います。そのためにも、定期的な問題把握のための調査が最優先であると思います。

 

斉藤 正行氏

・ 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
・ 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任