訪問介護事業所の4割が赤字。その要因と事業者の取るべき対策
訪問介護事業所の約4割が赤字であるという調査結果が示されました。福祉医療機構が、融資を行っている1846事業所に行った調査であり、40.1%の事業所が赤字であると示されました。福祉医療機構の融資先という前提条件がありますので、融資を受けていないその他多くを含めた事業所全体の4割が赤字であるということではありません。また、直近で示された経営概況調査による収支差率では、訪問介護は6.1%の収支差率であり、全体平均の3.0%を上回った結果が示されています。しかしながら、前年は6.9%の収支差率でありましたので0.8%悪化をしています。更には、この直近の経営概況調査の結果は物価高騰の本格的な影響を受ける前の調査であり、物価高騰の影響も加味して考えると、訪問介護事業所の多くが苦しい経営環境にあることは間違いありません。
訪問介護事業所の収益環境が厳しくなっている要因を分析していくと、収入面では、コロナ禍において利用者の利用控えによる利用率の低下が主たる要因の1つだと思います。デイサービス等の集団での通いサービスほどの大きな影響ではないものの、一定の利用控えによる影響は予測されます。更には、支出面では、ヘルパー不足は深刻な状況となっており、有効求人倍率も10倍を超えているとのデータが示されています。職員確保のための、人件費の高騰、採用費や労務管理費などの増加によるコスト増と、加えて、新型コロナ感染拡大対策のための経費の増加、そして直近では、物価高騰による電気代、ガソリン代、その他全般の経費が増加していることが要因だと思います。
更には、福祉医療機構の調査レポートでは、訪問介護事業所の黒字と赤字の事業所の違いについても分析されています。主要因は、「1人あたりの収入単価」の違いにあるとされています。つまり、平均介護度による違い、特定事業所加算をはじめとする加算取得の有無、加えて、生活援助と身体介護の割合の違いになどによる1人あたり収入単価が収支に大きな影響を及ぼしていることが予測されます。調査レポートでは、生活援助の割合の高い事業所の多くが赤字となっていると問題指摘されています。
この交付金は、この後、速やかに全国の都道府県、市区町村に配分されることとなります。その後、各地方議会において、「事業推奨メニュー」を参考にし、どのような形で、どのような分野に、どのくらいの金額を、いつ配分するかを検討し、決定していくこととなります。従って、皆様の現場に届くまでには、まだ数カ月の期間を要することになると思います。また、前回一部の自治体では、自治体の判断によって、介護分野への配分が行われないケースや、軽微な配分となるケースも存在していました。
今後の訪問介護事業所の収支改善に向けて取るべき対策を、次期(2024年)介護報酬改定の見通しも踏まえて、お示ししたいと思います。まずは、「1人あたりの収入単価」の改善に向けて、取得可能な加算を算定出来る体制を整えることや、利用者の平均介護度や身体介護の割合を高める工夫を行うことが必要であります。もちろん、生活援助が必要な要介護高齢者も多いことから、単純にサービスを切り捨てるのではなく、必要な方へのサービスをしっかりと見極めて提供していくとともに、中重度対応への意識を高めていくことが重要であります。
更には、次期報酬改定においては、いよいよ訪問介護にも科学的介護情報システム「LIFE」の本格導入も予測されています。「科学的介護の推進」「自立支援・重度化防止の推進」への取組みについても、短時間でのマンツーマンサービスである訪問介護においてどのように実践していくべきかを、今のうちから検討し、準備をしておくことは欠かせません。更には、業務の効率化、DX対応も不可欠であります。
そして、何よりも、重度化対応、科学的介護、自立支援、DX対応を進めていくためには常勤ヘルパーの確保・育成、若手ヘルパーの確保・育成が何よりも重要な施策であります。これからの訪問介護事業所には、大きな変化が求められることとなります。しっかりと準備を進めていかなければならないことは間違いありません。
斉藤 正行氏
・ 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
・ 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任