技能実習制度の廃止と新制度への移行。外国人材活用に大きな変化

2023.04.28

令和5年4月10日に「第5回技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が開催されました。この有識者会議では、文字通り、特定技能制度と技能実習制度の在り方の見直しについて有識者で議論を進めており、今年の春に中間報告書、今年の秋に最終報告書を取りまとめて政府に意見提言する予定が示されています。その中間報告書のたたき台が第5回会議で示されました。

翌日の新聞各紙でも1面に記事掲載されていたのでご承知の方も多いと思います。検討の大きな方向性として「技能実習制度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきである」と示されました。技能実習制度は、開発途上国に対する技能移転を目的とした人材育成を通じた国際貢献制度であるはずが、実態としては介護をはじめとする人手不足の業界の人材確保のための労働力として活用されているケースが散見されており、一部悪質な管理団体や実習先による外国人実習生に対して、過酷な労働環境を強いており、人権面など様々な問題が指摘されていました。

当初、有識者会議での議論では、労働力としての外国人活用制度には特定技能制度があることから、労働力としての役割は特定技能制度に集約し、技能実習制度を本来目的に限定するような方向性での議論もありましたが、中間報告書のたたき台では、技能実習制度を現在の実態に即した制度とすべく、新制度創設の提言として取りまとめとなりました。

新制度の創設に向けて、これから更に有識者会議での議論を重ねて、正式な中間報告書のまとめ、更には秋の最終報告書にまとめていくこととなりますが、中間報告書のたたき台においていくつかの論点に対する検討の基本的な考え方が示されています。例えば、技能実習制度と特定技能制度で受入れ可能な職種が一致していないことから、受入れ職種は特定技能に合わせた新制度とすること。管理団体や登録支援期間は存続させるものの要件を厳格化するなどして、悪質な管理団体等を排除する対策が講じられることになります。そして、介護事業者を含めた受け入れ先に大きな影響が生じることとなるのは、転籍の在り方についてです。これまで技能実習制度が特定技能制度と大きく異なっていたのは、技能実習制度では原則転籍ができないというルールです。このことによって、受入れ先としては一定期間の雇用が確保されることとなり、自由な転職活動が可能な特定技能制度に対する利点と考えられていました。今回の中間報告書のたたき台では、人材確保の目的が加えられることから、労働者となるのであれば、労働者の当然の権利である転籍についても認める制度とすべきであると提言されています。ただし、引き続き人材育成の目的も同時に有することから、完全に自由な転職を認めるのではなく、明らかな問題のある労働環境の劣悪な受入れ先の場合に転籍可能とするなど限定的となる見通しではあります。その他にもいくかの論点がありますが、いずれにせよ、この新制度が創設されることとなれば、特的技能とのすみ分けをしっかりと整理する必要があり、そのすみ分けを踏まえた新制度創設に向けた今後の更なる議論へと繋がっていくことになると思います。

また、新制度はあくまで、秋に示される最終報告書をもとに、来年以降に政府や国会で議論された上で創設されることになるので、創設は早くとも来年夏ごろ以降になることが予測されます。同時に、新制度創設のタイミングに合わせて、日本語要件や訪問サービスへの解禁など、介護特有要件の見直しも行われることとなる予定であり、介護事業者はこれからの議論のゆくえに注目するとともに、コロナ禍の収束と合わせた景気拡大に伴って、介護人材確保が今後ますます厳しくなることが予測されることから、今のうちから積極的な海外人材確保に向けた準備を進めていくことが必要であると思います。

 

斉藤 正行氏

・ 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
・ 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任