令和5年度介護事業経営実態調査において新しい仕組みが導入
2024年介護報酬改定の基礎資料となる令和5年度介護事業経営実態調査が5月に行われることとなります。この調査において示される介護事業全体や、サービスごとの収支差率(介護事業の収入と支出の差額の収入に占める割合。いわゆる利益率。)は、改定率に最も影響を与える数字となります。調査結果の速報は10月ごろに公表される予定であり、その後、11月ごろの全体改定率の決定へと繋がります。
この調査で示される介護サービスの収支差率については、正確性に疑問の声も上がっています。収支差率は数字が高ければマイナス改定、低ければプラス改定へと繋がる可能性が高まると言っても過言ではありません。正確性に疑問が生じている主たる要因は、2つであると推察しています。1つは、調査の有効回答率です。前回調査では45.2%であり、半分以上の事業所は調査に回答をしていません。調査票への回答には一定の負担が生じるため、事業運営に余裕の無い事業所ほど回答を控える傾向にあると思います。事業運営に余裕の無い事業所は、採算の取れていない事業所である可能性も高いため、有効回答率が低ければ収支差率が高まる可能性があります。そして、もう1つは、調査における支出項目の中で、本部経費の事業所案分を計上することが可能ですが、計上されていないケースが散見されています。事業運営における本部経費とは、本部社員の人件費や、広報費、採用広告費、研修費など様々です。調査票は本社ではなく、各事業所に送付されます。事業所の管理者のほとんどの方は本部経費の正確な数字を知り得る立場にはありません。従って、本部に確認の上で対応することが求められますが、そもそも本部経費を計上することが可能なルールを知らない管理者も多いため、管理者が知りうる範囲の収支結果を記載して提出してしまうと本部経費が計上されずに、本来より高い収支差率となってしまいます。
このような背景を踏まえて、この度、厚生労働省は、初めての試みとして、調査票の本社一括送付の仕組みを導入することとしました。事業所を複数展開している法人や、広域展開している法人では、毎回複数事業所が調査対象となるケースも多く、その都度、事業所と本社で数字のやり取りを行っているので、本社への一括送付が実施されれば、作業効率が高まり現場の負担軽減へと繋がります。また、事業所に送付された場合には、管理者がこの調査の重要性を十分に把握できていない場合や、業務多忙により調査回答を怠る可能性も秘めているため、本社一括送付となれば、確実な回答へと繋がり、回答率の向上が図られることとなります。ただし、本社一括送付を希望する法人は事前届出が必要となります。5月の調査票送付の前に届出なければなりませんので、令和5年4月30日までの届出が必要となります。
この調査における調査対象事業所は無作為に抽出されることから、全ての事業所に調査票が届くわけではありませんが、本社一括送付を希望する法人は事前届を行うとともに、事業所の皆さん方は、調査票が届いた際には、必ず本社に問い合わせて本部経費を計上した上で、必ず提出して欲しいと思います。繰り返しとなりますが、この調査結果が、次期報酬改定における改定率の決定に極めて大きな影響を及ぼすこととなります。介護業界全体がしっかりと協力していくことが大切であると思います。
斉藤 正行氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体