次期介護報酬改定のプラス改定に向けた動向」

2023.06.02

次期介護報酬改定に向けた動きが、少しずつ活発になってきました。いよいよ介護給付費分科会による具体的な議論がスタートします。改定率の決定は今年秋ごろに見込まれています。物価高騰の影響による厳しい情勢を考慮したプラス改定の実現が業界では期待されていますが、決して楽観視できる状況ではないと、私は再三にわたり警鐘を鳴らしています。

改定率に対する厳しさを増す最大の要因は、政府が推進している「少子化対策」と、「防衛費」への予算の拡大政策の影響です。現時点では、まだこの2つの予算確保に向けた目途は立てられていない状況にあります。その他予算の削減圧力が高まることが予測され、それは次期報酬改定におけるマイナス改定への議論に繋がっていく可能性を意味するからです。

そのような状況の中で、介護業界にとって明るい兆しとなる動きも出てまいりました。1つは、5月11日に開催された財政審での財務省による社会保障改革への意見提言です。前回のコラムで解説した通り、厳しい報酬削減提案がいくつも盛り込まれてはいるものの、目新しい提言があるわけではなく、財政審の提言が想定の範囲の内容にとどまったことは、好材料であると思います。

そしてもう1つは、5月9日に開催された自民党政務調査会社会保障制度調査会の役員会での決定内容です。与党である自民党の政策を決定する場であり、その中で、「令和6年度の報酬改定について、過去30年経験したことのない物価高騰・賃金上昇の状況を踏まえて大幅な引き上げを行うこと。」と取り纏められ、政府へと提言が行われました。政府イコール自民党ではありませんので、このことをもってプラス改定が決定されたわけではありませんが、与党である自民党の政調での意見提言には、大変重たい意義があると思います。最終的な報酬改定の決定となる秋ごろの情勢変化によっては、まだまだ予断を許すことはできない状況でありますが、次期改定に向けた春先での動向としては、幸先の良い流れであると思います。

ちなみに、この自民党政調の要望取り纏めに先立って、全国介護事業者連盟をはじめとする介護関係11団体による連名において、自民党政調社会保障調査会に対する「物価・賃金高騰対策に関する要望書」を提出したことが大きな影響を及ぼしていることには言及しておきたいと思います。

これから、介護給付費分科会による本格的な報酬改定議論とともに、関係団体や、与野党での調整を行い、大臣折衝を経て、秋には改定率が決定することとなります。診療報酬との同時改定ともなりますので、医療関係団体との調整による診療報酬のゆくえにも連動していくことが予測されます。まだまだ次期改定に向けた動きは始まったばかりです。今後の動静に注視していくとともに、引き続きしっかりと働きかけを行い、業界全体が一致団結し、プラス改定の実現を目指していくことが大切であると思います。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/