「処遇改善加算の1本化・簡素化と居宅介護支援への加算創設の可能性」

次期介護報酬改定に向けたテーマの中で最重要となる介護従事者への処遇改善について論考したいと思います。
最新データによると、介護職員の賃金は年々、着実に上昇しているものの、昨年で、全産業平均と6.8万円の差があり、更なる改善が必要であると言えます。また、処遇改善関連加算の最新取得率が示されました。今年、「処遇改善加算」は93.8%。「特定処遇改善加算」は72.3%。「ベースアップ等支援加算」は86.4%となっています。着実に算定率は高まっていますが、更なる算定率向上に向けた対応が求められます。
このような情勢も踏まえて、介護従事者に対する更なる処遇改善に向けた取組みが必要でありますが、従来は、処遇改善関連加算による対策一辺倒であったと言っても過言ではありません。引き続き、次期改定に向けて、処遇改善関連加算の拡充や、見直しは重要ですが、合わせて、基本報酬単位の引き上げを事業者の多くは望んでいます。経営基盤の安定なくして継続的な処遇改善を行うことは難しいからです。コロナ禍や、物価高騰による影響等、次期改定では、大幅な基本報酬増が実現するかどうかに注目したいと思います。
仮に報酬が大幅に引き上げられた際に、しっかりと職員の処遇改善に分配されるのかどうかを危惧する声もありますが、来年4月は報酬改定とともに、介護保険法改正も施行され、事業者への財務諸表や経営情報の公表が義務付けられることとなります。その情報開示において、事業者の処遇改善に対する取組みや、労働分配率などを開示する仕組みを構築していくことが重要であると思います。
次期改定における改定率の決定は、年末ごろに予定されており、政治情勢などを踏まえた決断となるため、現時点での見通しは立て難い状況にあります。最重要政策は、処遇改善関連加算の見直しとなることは間違いありません。見直しに向けた論点には、3種類となっている加算の1本化及び、書式の簡素化、介護職以外の職種横断的な分配の在り方、更なる加算額の増額などが予測されます。詳細な議論は審議会において、これからとなりますが、現時点での私の見立てを申し上げたいと思います。
まず、加算の1本化については、恐らく実現される可能性が高いと思います。その際、目的と仕組みの異なる3種類の加算の整合性を図り、どのような1つの新加算とするかは大変難しいところです。経験・技能のある職員への評価の在り方、キャリアアップ体制の構築、介護職種以外への配分の在り方、ベースアップ等の月額給与への配分の在り方などがポイントとなります。3種類の加算それぞれの良さを組み合わせた新加算となるのだと思います。いずれの形にせよ、加算の1本化が実現した際に大きな問題は、各加算の算定率の違いです。先に示した数字の通り、20%近い算定率の開きがあります。1つの加算だけを算定している事業所でも、新加算を算定しなければ、職員の処遇がマイナスとなってしまうことから、最も算定率の高い「処遇改善加算」を算定している全事業所が、新加算を算定することが予測されます。従ってその分、給付額の増加へと繋がることになるため、財源をしっかりと確保しなければなりません。
そして、最大の焦点となるのは、居宅介護支援のケアマネジャーに対する処遇改善加算の創設です。ケアマネジャーのなり手不足の問題は深刻であり、新加算の創設が期待されます。ただし、財源確保の問題から新加算の創設に向けては、容易ではありません。今後の議論のゆくえに注目が必要です。
介護業界における最大の課題である人材確保に向けて、全産業平均に所得を近づけていくことが重要な施策であり、次期改定において、どの程度進展していくこととなるのか注視していきたいと思います。

斉藤 正行氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体