訪問+通所複合型新サービスの詳細が判明(2)

先週のコラムで、訪問と通所を組み合わせた複合型サービスの具体的な中身の解説を致しましたが、令和5年12月4日に開催された介護給付費分科会において、新サービスの2024年改定での創設見送り方針が示されました。3年間の事業実証などを行い2027年改定での創設が再検討されることになります。
10月の分科会で報酬体系や、利用定員数、人員配置用件などの案が示されたにもかかわらず、この年末の土壇場で方針転換されたことに、業界全体が大きな驚きに包まれています。私自身もこの結論は予測出来ていませんでした。新サービスの創設見通しについて、本コラムのみならず、SNS、各種メディア、セミナー等を通じて、積極的に発信しておりました。私自身の発信を受け、事業展開に向けて準備を進めていた方がいらっしゃったとすれば申し訳なく思います。私の見通しが誤っていたことを認めお詫び申し上げます。
しかしながら、正直に申し上げて今回のこのタイミングでの見送り判断には、大きな懸念があります。そもそも本件は、昨年、介護保険部会において検討が進められ、委員による議論を経て、報告書が取りまとめられ、改正介護保険法案に盛り込まれて国会での決議が得られたところです。もちろん改正介護保険法案の可決は、あくまで新サービスが創設可能な体制を整えただけであり、新サービスを創設することが決議されたわけではありませんので、今回の見送り方針に繋がったわけであります。ただし、介護給付費分科会は、介護保険部会での創設議論を経て、あくまで報酬に関する検討、議論を行う場であり、その給付費分科会で異論が多数であったからと言って創設を見送ることは、介護保険部会での議論を形骸化させるのでは無いかとの懸念があります。
ちなみに、私自身は必ずしもこの新サービス創設を積極的に推進したいと考えていたわけではありません。公的な検討会やメディア等での私の多くの発信から「そもそもこの新サービスは介事連が主導で進めているのでは?」といった誤解をされている方もいましたが、そうではありません。介護業界、現場の多数が、新サービス創設に対して否定的•懐疑的•慎重論であったことはもちろん承知しています。新たなビジネスチャンスになるのではないかと期待していたデイサービス事業者の一部の方々を除くと、総じてネガティブな受け止められ方であったと感じていました。
小多機、看多機の方々の多くは、類似サービスの創設は競争激化を招くこととなり、新サービスが外マネとなれば利用者確保での大きな脅威になるのでは?と心配の声を沢山聞きました。小多機、看多機を推進してきた厚労省のハシゴ外しではないかとの怒りの声も聞こえていました。また、訪問サービスやヘルパーの方々からは、通所事業を行っていなければ新サービス参入は容易にできないため、ヘルパー不足の厳しい経営環境の中で、訪問機能の競合となる新サービス創設への心配の声を沢山聞きました。居宅介護支援事業所、ケアマネジャーからは、通常の訪問介護と通所介護を利用するケース、新サービスを利用するケース、小多機•看多機を利用するケース、その住み分けが不明瞭であり、現場が混乱するのでは?との声を沢山聞きました。こういった現場からの数多くの声を踏まえた今回の見送り方針であろうと思います。
私は、全国の介護事業者団体の代表の立場であり、現場の多くの皆さんの声の代弁者でありますから、決して我々が新サービス創設を主導することはありません。今回の見送り方針についても、期待していた方々には申し訳ないですが、これで現場の混乱も生じないので、波風がたたなくて、現場としては良かったのかな?とすら思っています。
ただ、私自身がこれまで前向きな情報発信をし続けてきたことは確かです。その理由は1つには、新サービス創設が数年前より厚労省で検討され、創設に向けて着々と準備が進められていたことを知っていたので、どうせ創設されるのであれば、下手に課題指摘を沢山すれば、課題に対応するために新ルールが複雑になり、結果的に敷居の高いサービスになってしまい誰も得しないのではないか?どうせなら、事業者が運営し易いサービスにするべきではないかと思い、前向きな姿勢で取り組んできたわけです。また、そもそもこの新サービス創設の背景でもありますが、これからの人口減少、現役世代の急減社会において、増え続ける要介護高齢者に対応していくには、1人ひとりの職員が複数の役割を担っていく、1つひとつの事業所が複数の役割を担っていく複合型サービスの体制を確立してなければ、将来の日本の介護を支えることが出来ないのではないか?そのような危機感から、現場の混乱や、現場からの否定的な声は百も承知していましたが、未来のために必要な対応であると信じて、前向きな対応をし続けてきました。この新サービス創設から、更なるいくつもの複合型サービスを創設していくことが必要であると思っていたからです。
そう言う意味では、今回の見送り方針については、正直残念な気持ちも大きいです。また、この先送り決断が、未来の日本の介護への悪影響とならないかも懸念しています。いずれにせよ、次期改定での新サービス創設は見送りとなり、3年後に向けた更なる議論と、実証事業がどのように進んでいくことになるのか、引き続き業界にとっては大変大きな関心事であり、注視していきたいと思います。

斉藤 正行氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体