令和6年度介護報酬改定における改定事項が決定。訪問介護のマイナスを危惧

2024.01.26

令和6年1月22日に開催された介護給付費分科会において「令和6年度介護報酬改定における改定事項」が示され、全サービス・加算の単位数及び、見直し項目が了承されました。全体改定率1.59%(処遇改善0.98%、その他0.61%)を、かなり濃淡をつけた割り振りとなりました。 

ほとんど全てのサービス種別の基本報酬はプラスとなっており、新たな加算創設や、既存加算の拡充など、介護事業者にとっては、総じて歓迎できる改定であると思います。しかしながら、最新の経営実態調査での収支差率が著しく高かった「訪問介護」「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」「夜間対応型訪問介護」「訪問リハビリテーション」の4サービスのみは、基本報酬がマイナスとなりました。 

主要なサービス種別の基本報酬を確認していくと、大幅なプラスとなったのは、特別養護老人ホーム2.79%増、介護老人保健施設2.54%増、一定のプラスとなったのは、居宅介護支援事業所0.92%、特定施設入居者生活介護0.75%増、微増となったのは、通所介護0.48%増、地域密着型通所介護0.34%、小規模多機能型居宅介護0.34、認知症対応型生活介護0.01%増、となりました。マイナスとなった4サービスは、訪問介護2.0%減、定期巡回4.4%減、夜間訪問3.5%減、訪問リハビリテーションは要介護は1単位プラスとなり、予防のみ2.9%減となりました。 

せっかくの大きなプラス改定の中で、4サービスの基本報酬がマイナスとなったことは大変残念であります。特に、一番の懸念されるのは、全国3万6000を超える事業所数である訪問介護です。経営実態調査による収支差率は確かに7.8%(前年対比+2.0%)と平均を大きく上回る数字ですが、個別分析では、前年対比で収入(売上)は大きく変わっておらず、ヘルパー不足の影響による人件費の減少による利益の押し上げが主たる要因と考えられており、必ずしも経営が安定しているわけではありません。サ高住などの集合住宅併設の訪問介護が、数字を押し上げていることも予測されます。集合住宅併設の訪問介護は、更なる減算内容が今回示されましたので、該当する事業所では、減算と基本報酬のマイナスとダブルのマイナス影響を受けることとになります。 

また、訪問介護員の有効求人倍率は15.53倍(令和4年度)と突出しており、ヘルパーが確保できず、経営環境も厳しいことから、地方を中心に事業所の閉鎖が多数であるとの報告を受けています。訪問介護の事業所数は、全体では、毎年少しづつ増加していますが、その内訳は、集合住宅併設と、都心部で効率良く経営できる事業所が大きく増加しており、地方での在宅向けの訪問介護事業所は減少している状況にあります。 

このような状況の中での訪問介護の基本報酬のマイナスは、『政府•厚労省は地方の訪問介護事業所が、益々閉鎖していくことを歓迎している』かのような誤ったメッセージともなりかねません。多くの訪問介護事業者は、未来を見据えることが出来なくなってしまうのではないでしょうか? 

とは言え、数単位のマイナスですから、加算算定などの対策を取れば、事業継続が必ずしも危ぶまれるわけではないことを訪問介護事業者は理解して対応してもらいたいと思います。ただ、それでも、訪問介護事業者の多くは、暗澹たる思いとなることは間違いないと思います。都心部での効率的な経営をしている事業者は、まだ十分に事業拡大も出来ると思いますが、地方はそうはいかないのでは、ないでしょうか?地方の在宅介護を支える訪問介護事業者の多くが、この決定により、張り詰めてきた糸が切れてしまわないかと強い危惧を覚えます。 

全体としては、改定内容は6年に一度の同時改定でありながら、前回改定ほどの変革インパクトはありません。ただし、だからといって改革の歩みが減退しているわけではありません。今後の更なる大変革に向けた、土台づくりとなる3年間であると理解し、介護事業者は変革への備えと、運営•介護の在り方への変化が不可欠です。報酬改定の全容を正しく読み解き、適切な対応を検討ください。 

 
 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/