令和6年度介護報酬改定における特別養護老人ホームの見直し解説

「令和6年度介護報酬改定における改定事項」の解説。今回は、特別養護老人ホーム(特養)の見直し内容について解説していきたいと思います。全体改定率は+1.59%であり、処遇改善を除いた事業者への割り振りは+0.61%となります。特養の基本報酬単位は+2.79%増となり、全サービス種別で最も大きな上げ幅となりました。背景には、直近の経営実態調査委による収支差率が調査来で初めての赤字となるなど、特養を取り巻く経営環境が大変厳しい状況にあるからです。
見直し項目について、特養は32項目となり、老人保健施設に次ぐ見直し項目の多い改定となり、特養への大きな変化が求められるとともに、新加算が多数創設され、収入増へと繋げることが可能な選択肢が増やされたことにもなります。ただし、他サービスと共通する見直し項目も多く、例えば「協力医療機関との連携体制の構築」「協力医療機関連携加算の創設」「高齢者施設等感染対策向上加算の創設」「BCP未作成に対する減算の導入」「高齢者虐待防止の推進」「認知症チームケア推進加算の創設」「科学的介護推進体制加算の見直し」「処遇改善加算の1本化」「テレワークの取扱いの明確化」「生産性の向上推進体制加算の創設」「技能実習生の人員配置要件の見直し」等となります。
中でもポイントとなる見直し項目である「協力医療機関との連携体制の構築」「協力医療機関連携加算の創設」は、協力医療機関の定義が明確化され、医療連携の体制がしっかりと構築される実態の伴う連携先の確保が求められることになります。同時に、情報共有を行う会議等を定期的に開催することで算定可能な加算が創設されます。
また、「生産性の向上推進体制加算の創設」は、介護ロボットやテクノロジー活用による生産性の向上に向けた業務改善が行われていれば算定可能な加算が創設されます。加えて、「認知症チームケア推進加算の創設」は、認知症の行動・心理症状(BPSD)の発現を未然に防ぐため、専門研修受講者の配置やチームケアを実施していれば算定可能な加算が創設されます。
その他、特養固有の見直し項目の中でポイントとなる5つをピックアップします。
1.配置医師緊急時対応加算の見直し(特養固有の見直し)
2.特別通院送迎加算の創設(特養固有の見直し)
3.退所時栄養情報連携加算の創設(特養等の施設4サービスの見直し)
4.排せつ支援加算の見直し(特養等の施設4サービスと看多機の見直し)
5.褥瘡マネジメント加算の見直し(特養等の施設4サービスと看多機の見直し)
「配置医師緊急時対応加算の見直し」は、配置医師が早朝・夜間・深夜以外でも勤務時間外に施設診療を行った場合に算定可能な区分が創設されます。「特別通院送迎加算の創設」は、透析が必要な利用者に対する病院への送迎を行った際に算定可能な加算が創設されます。「退所時栄養情報連携加算の創設」は、特別な栄養管理が必要な利用者が退所する際に、退所先に必要な情報提供を行うことで算定可能な加算が創設されます。「排せつ支援加算の見直し」は、加算のⅡとⅢにおいて、適切な支援によって尿道カテーテルを抜去することが出来た際に算定可能なアウトカム要件が追加されます。「褥瘡マネジメント加算の見直し」は、加算のⅡとⅢにおいて、適切な支援によって褥瘡を治癒することが出来た際に算定可能なアウトカム要件が追加されます。
加えて、報酬とは別建てとなりますが、物価高騰の影響を加味して、基準費用額(居住費)について1日60円が引き上げられることとなりました。
以上、今回の令和6年度介護報酬改定の見直し項目は、特養にとっては、収入改善へと繋がる可能性の高い改定となったことは間違いありませんが、同時に、様々な改革が求められる方向性も示されています。今回の改定で示された4つの基本的な視点について、特養は全てを集約した見直しとなっていると言っても過言ではありません。ひとつひとつの見直し内容の意義をしっかりと把握し、施設運営の在り方改革を進めていくことが必要となります。

斉藤 正行氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体