介護事業者の倒産件数が過去最多。その要因と今後のゆくえ

2024.07.05

民間調査会社の調査結果において、令和6年の1月から5月までの介護事業者の倒産件数が72件と過去最多であることが示されました。そのうちの半数近い34件が訪問介護事業者であります。加えて、倒産事業者の8割近くが職員10人未満の零細事業者であります。その要因と背景、これからについて論考したいと思います。

倒産件数が増大している最大の背景は、物価高騰とコロナ禍による影響であると考えます。直近の経営調査の結果においても、全サービス平均の収支差率は2.4%と前年対比マイナス0.4%となり、事業者の収益悪化が示されています。訪問介護は7.8%と高い水準でありましたが、集合住宅併設の事業所、都心部の事業所、大手法人運営の事業所などが数字を押し上げており、地方での小規模な在宅訪問事業所の収益環境は非常に厳しいことが想定されます。経営調査でも訪問介護事業所の4割弱が赤字であるとの内訳も示されています。

物価高騰とコロナ禍の影響によって、利用者の獲得、職員の確保が厳しさを増す中で、経費の増加が著しい状況となり、補助金等による公的な支援では、事業者はマイナスをリカバリー出来ていません。コロナの5類移行後は、他産業の経済が回復し、介護業界の有効求人倍率が悪化傾向にあります。

加えて、物価高騰に対する他産業の賃上げに介護業界は遅れをとる形となっており、採用費や人件費の高騰が更なる収益の悪化を招くとともに、人員確保の厳しさが極まっていることも、倒産件数の増大の大きな要因となっていると思います。

このような厳しい経営環境が続く中で、倒産件数が最多となった契機が2つあると思います。

1つは、サービス全般的に、コロナ禍でのゼロゼロ融資(民間金融機関による実質無利子・無担保融資)の返済を迎える事業者が増えたことです。政府による追加策での返済措置期間の実質的な延長対応が出来なかった事業者の資金繰りの悪化が背景にあると思います。

2つめは、訪問介護事業者の倒産割合が高まっている背景には、令和6年度介護報酬改定によるマイナス改定の心理的な影響があると思います。今回の調査結果は、5月までであり、4月の改定での直接的な収入減が影響した可能性は低いと思います。

しかしながら、マイナス改定の発表は年初に行われており、厳しい環境の中で辛抱して運営してきた小規模事業者が、将来に悲観して事業所の閉鎖や撤退の決断に至った可能性は十分にあります。いずれにせよ、ゼロゼロ融資と報酬改定による影響が本格化するのは、これからであり、更なる倒産件数の急増が見込まれるのではないかと大変危惧しています。

ただし、介護事業者の経営環境が厳しさを増していることは間違いありませんが、倒産件数の最多については、一方で、冷静に分析すべき事情が別にもあります。新たに介護事業を展開する事業者の増加数です。

民間調査会社によるデータでは、昨年1年間に新設された介護事業者は3203社となり、5年連続で前年を上回っています。確かに倒産件数は最多となっていますが、そもそもの母数となる事業者の数が増えれば、件数が得ることは当然のことであり、件数だけを問題視するのではなく、倒産割合を考慮すべきであると思います。また、新規参入の事業者の増大は、更なる競争の激化を生み出すことにもなり、事業者にはいっそうの経営努力も求められます。

いずれにせよ、今後、更なる倒産件数の増加も予想されるところであり、これから3年後の介護保険法改正・報酬改定に向けた議論が進められていくことになります。これらの議論とともに、単年度ごとでの介護事業者に対する追加支援策の検討を、とりわけ訪問介護事業者に対する人材確保や定着に向けた対策を政府が講じることで、事業者の将来不安を払拭する必要があると思います。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/