令和6年度診療報酬改定において老人ホームへの訪問診療が行えなくなる?

2024.07.12

令和6年度の報酬改定は、医療・介護・障害福祉の同時改定、トリプル改定であり、診療報酬改定は6月施行となりました。その中で、老人ホーム等に対する訪問診療についてドラスティックな見直しが行われることとなり、場合によっては、老人ホーム等への訪問診療が十分に実施できなくなる可能性も秘めており、老人ホーム等の運営にも大きな影響を及ぼすこととなり、留意が必要です。

まず、見直しが行われた内容を確認したいと思います。「訪問診療の算定回数が多い医療機関における在宅時医学総合管理料(在総管)及び施設入居時等医学総合管理料(施設総管)の評価の見直し」が行われました。

見直しの具体的な内容は、直近3カ月間の訪問診療回数を合算して2100回以上の場合であり、下記4つの要件のうちいずれか1つでも満たすことが出来なければ、単一建物診療患者の数が10人以上の患者について、所定点数の40%の減算となります。10人以上の患者からとは言え、40%もの減算適用となれば、診療所の経営にとっては極めて深刻な事態となります。

4つの要件を確認すると、

  1. 直近1年間に5つ以上の保険医療機関から、文書による紹介を受けて訪問診療を開始した実績があること
  2. 直近1年間の在宅における看取りの実績を20件以上有していること
  3. 直近3カ月に在総管及び施設総管を算定した患者のうち施設総管を算定した患者の割合が7割以下であること
  4. 直近3カ月間に在総管及び施設総管を算定した患者のうち、要介護3以上又は別表八の二の患者等の割合が5割以上であること

この4つの要件の中で、とりわけ厳しい要件となるのが、③となります。つまりは、老人ホーム等に対する訪問診療の割合が70%以下であること。在宅への訪問診療を30%以上行わなければならないということになります。

このことによって、老人ホーム等を主として訪問診療を行っている診療所は当然、減算の対象となるのみならず、応召義務が定められている医師の立場としては、老人ホーム等からの依頼があった場合には、原則、診療を拒むことは出来ないため、依頼に基づき対応し、結果として有料老人ホーム等の割合が高まっている診療所も該当することになります。

40%と減算の幅が極めて大きいことから、今後、老人ホーム等に対する訪問診療が敬遠される可能性にも繋がりかねません。受診対応に切り替えることは介護現場の状況を鑑みれば不可能に近いことであり、複数の診療所との連携を模索することを検討するなど、介護現場では今後の対応を考えていかなければなりません。ただし、安易な主治医の交代は避けなければなりません。

このような状況の中、医療関係団体と連携し、全国介護事業者連盟をはじめとする介護関係団体との連名で、配慮ある対応を求める要望活動を行ってまいりました。その結果、新たな解釈通知として、③の施設総管の対象者から、看取り期の患者や、難病患者等を除外する解釈が示されることとなりました。結果として、老人ホーム等に対する訪問診療の割合が実質的には70%より高い割合まで要件から外れることとなりました。加えて、一定の要件はありますが、開始までの猶予期間を来年4月まで設けられることとなりましたので、診療所及び老人ホーム等が対応準備を行う一定の期間を得ることが出来ました。

それでも、40%の減算が適用される診療所にとっては、経営の死活問題であり、老人ホーム等においても現在の訪問診療を行ってもらっている診療所の状況確認とともに、必要に応じた対応が求められることになります。皆さんご留意ください。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/