介護職員の必要数、2040年で272万人。57万人の不足への対応が迫られる

2024.07.19

厚生労働省が最新の介護職員の必要人数について推計を公表しました。2040年には約272万人の介護職員が必要であり、直近のデータでは2022年度に約215万人が従事していることから、約57万人が不足すると予測されます。毎年約3.2万人ずつ増やさなければならず、介護職員不足はいっそう深刻な問題となります。

従来に示されていた予測では、2040年に必要な介護職員を約280万人としており、今回は必要人数が約8万人減ったことになります。厚生労働省は、その要因を、様々に講じてきた介護予防・健康寿命の延伸に向けた施策の効果が出始めており、要介護高齢者になる比率が低下し、従来の予測より要介護高齢者の増加数が少なく見積もられ、その分必要な介護事業所数・介護職員数が少なくなる見込みとなったとの見解を示しています。

ただ、だからと言って、介護現場の人材不足の状況が改善傾向にあるわけでは決してありません。介護現場では、2022年度に、働き始める人材を離職が初めて上回り、入職超過率がマイナスに転じました。入職超過率に改善が見られなければ、必要な介護職員数は更に増加することも考えられます。

また、介護職の離職率は低下傾向にあり2023年は13.1%となり、全産業平均の15%を下回っています。離職率が改善傾向にある中で、入職超過率がマイナスに転じたということは、新たに介護職として働き始める人数の割合が介護職総数から考えると減少していることを意味します。つまり、介護の人材採用が厳しさを増していることを意味します。

加えて、今後は生産年齢人口(15歳~64歳人口)が20年かけて2割程度減少していくことになります。生産年齢人口は、主たる労働人口とも言えるわけであり、約57万人の介護職員を増やさなければならないものの、労働者の母数となる生産年齢人口の大幅な減少によって、人材採用の厳しさは想像を絶する時期が訪れることになります。

このような状況の中で、介護職員を増やしていくために行わなければならないことは、まずは何と言っても、引き続きの処遇改善策を講じていくことです。現在の物価高騰の局面で、職員の賃金価値は目減りしており、他産業の賃上げ水準には追い付いておらず、賃金格差が広がっている状況にあります。令和6年度の介護報酬改定における処遇改善は、令和7年度分までの予算として支給されています。令和8年度は更なる処遇改善を行う方針が示されていることから、臨時の報酬改定や税金による追加措置が期待されます。加えて令和9年度の報酬改定における更なる処遇改善も求められることになります。また、政府対策のみならず、事業者による独自の処遇改善に向けた取組みにも期待されます。

そして、これからの重要テーマとなるのは、何と言っても「多様な就労の機会の確保」と「生産性の向上」です。まず、多様な就労の機会の確保では、これまで活用してこなかった人材の活用を検討していくことが事業者には求められます。例えば、短時間労働者や、元気な高齢者、障害をお持ちの方が、介護現場で戦力として働ける環境を整えていかなければなりません。そして、今後は、必ず外国人活用が必須の対応となる時代が近づいてきていると思います。政府も訪問介護における外国人活用の解禁に向けた方針を示しており、事業者には必要不可欠な対応になると思います。また、生産性の向上に向けては、業務分解をしっかりと行い、タスクシフトが適切に行うことの出来る環境を整えることが必要となります。ICT機器やロボット、AI活用などのDX化の推進により、そもそもの介護職員数を想定より少ない人数で対応できる環境を事業者が整えるとともに、政府も制度における柔軟化にいっそう拍車をかけることが求められます。

このように、2040年の約57万人の介護職員不足に向けては、官民が一体となった抜本的な取組みが不可欠であると思います。

 

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体

http://kaiziren.or.jp/