ネット求人会社に対する規制強化は介護事業者に悪影響となる可能性あり!
厚生労働省が、7月24日に開催した審議会において、介護分野等における人材紹介会社および、ネット求人会社に対する新たな規制強化策が示されたことは、すでに本コラムでも伝達済みであります。しかしながら、その内容が結果として介護事業者に悪影響を及ぼす可能性を指摘したいと思います。
今回の審議会において、ネット求人会社に対して、人材紹介会社と同様に、求人登録・就職・定着のあらゆる過程で「お祝い金」を支払うことを原則禁止とする方針が示されました。これは、ネット求人会社における採用課金型と言われる事業モデルが、人材紹介会社と構造が類似しているものの事業者は、人材紹介会社のような許可制が設けられておらず、統一ルールが何ら定められていない状況を踏まえた措置となります。
しかしながら、人材紹介会社の事業モデルと、採用課金型のネット求人会社の事業モデルは、類似性はありますが、本質的には異なる事業モデルであります。求職者の就業ニーズと事業者の採用ニーズをコンサルタント等が丁寧に把握をした上で、適切な就業マッチングを行う人材紹介会社に対して、採用課金型のモデルは、あくまでインターネットによる求人広告を主とし、その広告費用は採用を根拠とした支払いとしている仕組みとなっています。従って、ネット求人会社では、求職者1人ひとりと直接接することはなく、ネットからの登録情報のみを管理している状況にあり、多くの求職者を管理して数を捌くことによって、1人あたりの採用費用は、人材紹介会社の費用より格安設定となっており、事業者の使用率も高い状況にあります。
ネット求人会社の採用課金型モデルにおける「お祝い金」は、求職者の獲得を目的としているケースは少なく、使用する事業者の不正チェックを目的として設定されているケースが多く見受けられます。ネット求人会社経由での採用の際に、別の採用手段による採用であると虚偽報告を行い、採用費用の支払いを逃れようと試みる事業者が残念ながら存在します。直接求職者と接しているわけではないネット求人会社は、「お祝い金」を受け取った求職者と、事業者の整合性を図って不正チェックを行っています。万一このまま「お祝い金」禁止のルールがネット求人会社にも適応された場合には、ネット求人会社は別の不正チェックの仕組みを構築する必要が生じ、その構築費用はそのまま広告費用の値上げへと繋がる可能性が極めて高いのです。これまで比較的安価な価格で利用が出来ていた採用課金型の費用の値上げは、介護事業者にとっては全く望まない結果となります。
そもそも、「お祝い金」が禁止された背景には、過度な金額のお祝い金をインセンティブとした求職者の囲い込みを抑止することが目的とされています。目的の趣旨とは異なる「お祝い金」に対する禁止のルール化が本当に必要な措置であるかどうかを今一度再考してもらいたいと思います。過度な金額の「お祝い金」のみを禁止とするなどの対策の検討が求められるのではないでしょうか?
また、近年、ネット求人会社と事業者のトラブルが生じているとの報告も上がってきています。事業者に複数の手段で応募が行われて採用した場合に、課金が発生するのか否か?求職者が複数のネット求人会社に登録し、複数の媒体より情報提供されて採用に至った場合に、2重請求や3重請求されるようなケースもあります。ネット求人会社の利用規約や違約金の考え方なども各社で大きな違いがある状況です。事業者がネット求人会社に対して求めるルールは、このような細かな運用面における一定のガイドラインの策定であり、「お祝い金」のルール化は事業者の悪影響となるのではないかと大変強い危惧を覚えています。今後、正式にルールがどのように決定されるのか。その動向に注目していかなければなりません。
斉藤 正行氏
一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
現場主導による制度改革の実現に向けて介護及び障害福祉事業者による大同団結を目指す横断型(法人種別・サービス種別)の事業者団体